ボルドー地方の心臓部であるオー・メドック地区には、6つの村名AOCがあります。ジロンド川沿いに北から南へと並ぶ4つ、サン・テステフ、ポイヤック、サン・ジュリアン、マルゴーの各AOCは、愛好家なら誰もが知るメジャーリーガー。1855年に行なわれた同地方の赤ワイン格付けに選ばれた、1～5級の特級シャトーが多数あるからです。いっぽう、ジロンド川から少し離れ、内陸側（西側）に入ったところにあるふたつの村名AOC、リストラック・メドック（Listrac-Médoc）とムーリス（Molis）は、あまり知名度がありません。理由は単純で、1855年の格付けシャトーがひとつもないから。とはいえ、それは優れたワインがないのとは違います。多数のコミューン（行政区分上の「村」）で構成される地区名AOCオー・メドックから、リストラック・メドックとムーリスが単独の村名AOCとして切り出されたのは、際立ったテロワールが認められるからです。実際、AOCリストラック・メドックには、現時点で高品質ながらもお買い得、将来性はおおいに有望というシャトーがいくつもあります。「メドックの屋根」と呼ばれるこの村は、標高が高く冷涼なテロワールゆえに、かつてはタフで気難しいワインの産地と見なされていました 。しかし近年、地球温暖化の恩恵とテロワールへの深い理解、そして惜しみない投資によって、有力シャトーの品質は着実な向上を遂げています。本記事では、そんなリストラック・メドックを深掘りしましょう。
【目次】
1. 概要：リストラック村とAOCリストラック・メドック
● 位置と範囲
● コミューンとしてのリストラック・メドック
● リストラック・メドックのAOC認定
● 主要ブドウ品種とスタイル
2. リストラック・メドックのテロワール
● 土壌の特徴
● 気候の特徴
● 土壌とブドウ品種のマッチング
3. なぜリストラック・メドックには格付けシャトーがないのか
● 価格差とその原因
● クリュ・ブルジョワ（Crus Bourgeois）
4. リストラック・メドックの代表的シャトー紹介
● シャトー・クラルク (Château Clarke)
● シャトー・フルカス・ボリー (Château Fourcas-Borie)
● シャトー・フルカス・デュプレ (Château Fourcas-Dupré)
● シャトー・フルカス・オスタン (Château Fourcas-Hosten)
● シャトー・サランソ・デュプレ (Château Saransot-Dupré)
5. リストラック・メドックのまとめ
1. 概要：リストラック村とAOCリストラック・メドック
位置と範囲
AOCリストラック・メドックが位置するのは、AOCサン・ジュリアンの南西方向、AOCマルゴーの北西方向で、もうひとつの「格付けシャトー無し村名AOC」のムーリス（Moulis）と、南北に隣り合っています（リストラック・メドックが北側）。北東から南西にかけての方角に延びる帯状の産地ですが、南隣のムーリスと比べると、南北方向に幅があります。AOCの西側は、メドック・エリアにある6つの村名AOCの中で、最もジロンド川から遠いです。行政区分上のコミューン（村）であるリストラック・メドック（Listrac-Médoc）が、AOCリストラック・メドックに認定されるエリアのすべてを占めていて、隣接のコミューンの土地は含まれません。なお、AOCリストラック・メドックを名乗れる域内のシャトーでも、消費者がより聞き慣れた名前のAOCオー・メドック（Haut-Médoc）と、ラベルに書いて市場に出す場合が少なからずあります（後者のほうがAOCとしては「格下」のため、この「格下げ」は適法です）。
コミューンとしてのリストラック・メドック
行政区分上の正式なコミューン名も、AOC名と同じリストラック・メドック（Listrac-Médoc）です。リストラックという地名は、ラテン語で「境界」を意味する「listra」に由来すると言われています 。これは、東にジロンド川を臨むワイン産地と、西に広がる広大な森林地帯との境界線という、この土地の地理的特徴を表した言葉です。村落の歴史はケルト人の時代（紀元前1200年頃から紀元後1世紀頃）まで遡れます。ローマ時代にはすでにブドウ栽培が始まっていて、16世紀にリストラックの名が知られるようになりました。ブドウ栽培以外に、穀物栽培や牧畜も盛んなほか、コミューンの西側が森なので、林業も主産業のひとつです。
ブドウ畑の面積は、現在400ヘクタールほどになります（ワインの年産は約350万本）。今日、この集落の人口は約2800人で、ワイン生産者の数は約50です（半数以上が協同組合）。名所と呼べる建造物としては、ロマネスク様式のサン・マルタン教会があり、12世紀からという長い歴史を持ちます。
12世紀まで遡るサン・マルタン教会の側廊 ©Unozoe
リストラック・メドックのAOC認定
リストラック・メドックが村名AOCとして認定されたのは1957年で、南に隣接するムーリスのAOC認定（1938年）と比べて、約20年遅れました（ジロンド川沿いのサン・テステフ、ポイヤック、サン・ジュリアンの各AOCが認定されたのは1936年、マルゴーAOCは1954年）。ラベルに表示可能なAOC名は、「Listrac-Médoc」のみで、後半を省略した「「Listrac」のみのラベル記載は認められていません。ただし、1986年までは、「Listrac」が正式なAOC名でしたので、古いヴィンテージにはその表示が見られます。
主要ブドウ品種とスタイル
生産可能なワインの色は赤のみで、許可品種はカベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドほか、ボルドー左岸で一般的な顔ぶれです。ブレンド比率としては、ジロンド川左岸の産地にしてはメルロが多く、カベルネ・ソーヴィニョンが少なくなる傾向があります。南隣のムーリスAOCよりメルロが多いのは、粘土質主体の土壌が多く同品種に適しているのと、気温が低いために晩熟のカベルネ・ソーヴィニョンがやや難しいという、テロワール上の理由が背景にあります。そのため、かつてのリストラックは、完熟していないタンニンの厳しさが前に出るスタイルで、冷涼なヴィンテージには青ピーマンのような香りがしました。
しかし、地球温暖化がブドウの熟度を底上げしたのに加え、生産者たちが区画別の土壌にあった品種を植えるようになったため、リストラックの赤は今、より豊潤でしなやかなスタイルへと変化しています。ボルドーワイン委員会が描写するAOCリストラックの典型的スタイルは、「健全でバランスがよく、骨格があって肉厚」です。同委員会はまた、AOCリストラック産ワインの熟成ポテンシャルとして、5～30年という範囲を示しています。この年数は、AOCマルゴー、AOCポイヤックと同じです（AOCサン・テステフ、AOCサン・ジュリアンについては、「5～50年」と、さらに長寿だという見立てになっています）。南隣のAOCムーリスのワインと比べると、「より力強いが、繊細さでは劣る」という見立てが一般的なようです。なお、AOCリストラック・メドック域内のブドウ畑から白ワインを生産した場合は、AOCボルドー・ブランとしてしか市場に出せません。クラルク、フルカス・デュプレ、フルカス・オスタン、サランソ・デュプレなどのシャトーが、少量ながら白を生産しています。19世紀のリストラック・メドックは、赤ワインよりも白のほうが有名でした。
完熟した黒ブドウの房 ©Château Fourcas Hosten
2. リストラック・メドックのテロワール
土壌の特徴
リストラック・メドックの土壌は、非常に多様です。アペラシオンの中心部には、メドック・エリアで最も古い地質層に属する粘土石灰質の基盤が広がっています。全体として、リストラック・メドックは同じエリアにある他のAOCよりも、粘土の比率が高いのが特徴です。もちろん、メドックの代名詞である砂利質の土壌も存在します。しかし、南東のAOCマルゴーや北東のAOCサン・ジュリアンといった銘醸村の分厚い砂利層と比較すると、リストラックの砂利層はより薄く、軽いです。アペラシオンの西端に向かうにつれ、土壌は砂質になり、ブドウ栽培にはあまり適さなくなります 。このように、粘土石灰質、砂利質、そして砂質がモザイク状に混在する複雑な土壌構成が、リストラック・メドックの特徴です。
気候の特徴
リストラック・メドックは、南隣のムーリスと同様、ジロンド川から比較的遠いため、川による気温緩和の影響が受けられず、メドック・エリアの中では冷涼です。リストラック・メドックはまた、標高が高めなので（コミューンの最高地点44メートルは、メドック・エリアで最も高い）、それも気温を下げる要因となっています。
土壌とブドウ品種のマッチング
リストラック・メドックのワインが近年、かつての「素朴で硬い」という評価を覆し、品質を著しく向上させたのは、生産者たちがテロワールとブドウ品種の適合性を深く理解するようになったためです。 歴史をひもとくと、メドック・エリアにあるワイン産地としての名声から、リストラック・メドックでもカベルネ・ソーヴィニョンが流行した時期も存在します。しかし、リストラック・メドックに多く見られる粘土質の冷たい土壌は、この晩生品種にとって理想的ではありません。大きな転換点は、1970年代にシャトー・クラルクが科学的な土壌分析に基づき、畑をメルロ主体へと大規模に植え替えた時です。クラルクは賭けに勝ち、多くの生産者たちが後に続きました。今日では、粘土の比率が高い区画に、その土壌に適したメルロを植えるのが一般的となっています。
また、カベルネ・フランに代わり、プティ・ヴェルドの栽培が増加しているのも近年の傾向です。プティ・ヴェルドは、カベルネ・ソーヴィニョンよりも早く熟す年があり、リストラックのテロワールにおいて、赤ワインに色やスパイス、骨格を与える重要な補助品種として、その価値を再認識されています。
空から見るリストラックのブドウ畑 ©Château Fourcas-Dupré
3. なぜリストラック・メドックには格付けシャトーがないのか
価格差とその原因
リストラック・メドックには。1855年に実施された「特級格付け（Grands Crus Classés）」に該当するシャトーはありません。同格付けは、ごくわずかな例外（1973年に起きたシャトー・ムートンの一級昇格など）を除き、実施以来170年間不動です。そのため、19世紀なかばの時点で、秀逸と捉えられていなかったシャトーは入っていません。1855年の格付けを単純化して言えば、当時の市場で高値を付けていたワインを、値段順に並べたリストです。その頃に高価格だったワインはほとんど、ジロンド川に近接したエリアに位置するシャトーから生まれており、内陸部のリストラック・メドックにはありませでした。
なぜこの格差が生まれたかは、メドック地区の卓越性の源、砂利質土壌の有無によって説明されます。リストラック・メドックにも砂利質土壌の区画はありますが、主なのは粘土石灰質土壌で、メドック・エリアの象徴たるカベルネ・ソーヴィニョンにはあまり向きません。リストラック・メドックは、土壌の面で不利だという理屈になります。
ジロンド川沿いのシャトーは、水上交通による輸出がしやすかったという物理的距離の差も、19世紀半ばの名声の差につながりました。川に近いシャトーが、英国への輸出を通じて国際的な知名度と評価を確立していったのに対し、内陸部のコミューンはそううまく事が運びませんでした。知名度が、価格のプレミアに結びつくのは今も昔も同じですから、リストラック・メドックはこの点でも不利だったのです。
クリュ・ブルジョワ（Crus Bourgeois）
1855年の格付けには入れなかったものの、リストラック・メドックのシャトーはクリュ・ブルジョワ（Crus Bourgeois）の格付け・認証制度と強く結びつき、同制度の中核コミューンのひとつとして重要な役割を果たしてきました。クリュ・ブルジョワについて、「1855年の格付けに漏れた二軍」だと悪くいう人はいますが、玉と石を分けるためのひとつの基準としては有益です。ただし、1932年に導入されて以来、制度の枠組みが何度も変わっており、1855年の格付けと比べ、基準の不安定性が憂慮されてきました（そのため、意図的にこの制度に加わらないシャトーも少なくありません）。2020年の格付けが最新で（次の見直しは2025年の予定）、次の三つの階層、下から上へ「クリュ・ブルジョワ（Cru Bourgeois）」、「クリュ・ブルジョワ・シュペリウール（Cru Bourgeois Supérieur）」、「クリュ・ブルジョワ・エクセプショネル（Cru Bourgeois Exceptionnel）に分かれます。リストラック・メドックにあるのは、全体で180シャトーあるクリュ・ブルジョワのうち8シャトー、56シャトーあるシュペリウールのうち5シャトー、14シャトーあるエクセプショネルのうち1シャトーです。合計で14シャトーは少なく思われるかもしれませんが、対象のコミューンは全部で80ほどありますからリストラック・メドックはかなりの占有率だと言ってよいでしょう。ただし、同AOCのトップ・シャトーのうち、クラルク、フルカス・デュプレ、フルカス・オスタンらは、クリュ・ブルジョワの枠組みに参加していません。
4. リストラック・メドックの代表的シャトー紹介
シャトー・クラルク (Château Clarke)
- クリュ・ブルジョワの格付け: なし
- 所有者: ロスチャイルド家
- 畑の面積: 58ヘクタール（黒ブドウ55ヘクタール、白・グリブドウ3ヘクタール）
- 品種構成：70%メルロ、30% カベルネ・ソーヴィニョン／70％ソーヴィニョン・ブラン、10%セミヨン、10%ミュスカデル、10％ソーヴィニョン・グリ
- 生産本数: 30万本
- セカンドワイン: レ・グランジュ・デ・ドメーヌ・エドモン・ド・ロートシルト（Les Granges des Domaines Edmond de Rothschild）
シャトー・クラルクの歴史は、12世紀にヴェルテュイユの修道士たちによってブドウが栽培されていた時代まで遡ります。現在のシャトー名の由来は、1771年にこの土地を購入したアイルランド人のトビー・クラークです 。名声が確立されたのは、1973年にエドモン・ド・ロートシルト男爵が、荒廃しきっていたシャトーを買い取ってからでした。上述のブドウ品種の植え替えに加え、醸造設備も刷新したのは、著名な醸造コンサルタントであった故エミール・ペイノー教授の助言のおかげです。1999 年には、新たにミシェル・ロランをコンサルタントに迎え、名声がいっそう高まりました。今日のシャトー・クラルクは、熟した果実味、凝縮感、そしてオークのニュアンスが豊かな、モダンで国際的スタイルのボルドーです。アペラシオンのリーダー生産者として、揺るぎない地位を確立しています。
シャトー・フルカス・ボリー (Château Fourcas-Borie)
- クリュ・ブルジョワの格付け: クリュ・ブルジョワ・シュペリウール（2020年）
- 所有者： ボリー家
- 畑の面積: 35ヘクタール
- 品種構成: 90%メルロ、10%プティ・ヴェルド
- 生産本数: 20万本
- セカンドワイン: 現在はなし
サン・ジュリアンの格付け第2級特級、シャトー・デュクリュ・ボーカイユと同じ、ブリュノ・ボリーの所有です。ボリー家はリストラックに長く根ざしてきましたが、このシャトーが大きく飛躍したのは2009年、ブリュノがシャトー・フルカス・デュモン（Château Fourcas-Dumont）を購入し、自身の名を冠した「フルカス・ボリー」へと改名してからでした。こちらも、現代的な酒質を備える赤ワインとして、市場で高い評価を受けるようになっています。畑はふたつのエリアに分かれ、粘土石灰質土壌の区画と、粘土質の上に砂利が乗る区画です 。品種構成はメルロが主体で、ヴィンテージによってはそのブレンド比率が100％近くになります（そのため、「リストラックのペトリュス」という宣伝文句を付けられていますが、これはさすがに過大評価でしょう）。
シャトー・フルカス・デュプレ (Château Fourcas-Dupré)
- クリュ・ブルジョワの格付け: なし
- 所有者: ジッケル家
- 畑の面積: 47ヘクタール（黒ブドウ46ヘクタール、白ブドウ1ヘクタール）
- 品種構成: 49%メルロ、49%カベルネ・ソーヴィニョン、2％プティ・ヴェルド／67％ソーヴィニョン・ブラン 67%、 33%セミヨン
- 生産本数: 30万本
- セカンドワイン: オート・テール・ド・フルカス・デュプレ（Hautes Terres de Fourcas Dupré）
もともとはクリュ・ルーレ（Cru Roullet）という名称で、1843年にジャン・バティスト・デュプレによって購入され、現在の名前に改められました。その後、数人の所有者の手を経てから、2019年に実業家ジェラール・ジッケルに売却され、現在に至っています。 1970年代から品質が向上し、ほかの「フルカス某」のシャトーらとともに、リストラック・メドックを率いる存在です。ブドウ畑は、醸造所の北側に位置する小高い丘に広がっており、粘土質の下層土の上に砂利が乗る、リストラック・メドックでは最も砂利質の多い土壌のひとつになります。品種構成はカベルネ・ソーヴィニョンとメルロがほぼ半々で、リストラック・メドックのシャトーの中ではカベルネの比率が高いのが特徴です。 かつてのフルカス・デュプレは、タンニンが頑強で、飲み頃まで時間がかかるスタイルでしたが、20世紀末に起きたボルドー現代化の波に乗り、より丸みがあり、早くから楽しめるスタイルに変化しました。
シャトー・フルカス・デュプレの畑とファサード ©Château Fourcas-Dupré
シャトー・フルカス・オスタン (Château Fourcas-Hosten)
- クリュ・ブルジョワの格付け: なし
- 所有者: モメジャ家
- 畑の面積: 50ヘクタール（黒ブドウ48ヘクタール、白・グリブドウ2ヘクタール）
- 品種構成: 53％カベルネ・ソーヴィニョン、42％メルロ、2.5％カベルネ・フラン、2.5％プティ・ヴェルド／84％ソーヴィニョン・ブラン、16％ソーヴィニョン・グリ
- 生産本数: 26万本
- セカンドワイン: レ・セードル・ドスタン（Les Cèdres d’Hosten）
村のシンボルであるロマネスク様式の教会の向かいに、シャトー・フルカス・オスタンはあります。2006年、フランスの高級ブランド「エルメス」のオーナー家であるモメジャ兄弟が取得し、ボルドー中の注目を集めました。兄弟は豊富な資金を投じ、醸造所の新設、畑の詳細な土壌調査、有機栽培への転換など、抜本的な品質向上策を次々と実行してきています。このシャトーの強みは、隣接はしていますが明確に異なるふたつのテロワールを所有している点です。標高が低い粘土石灰質土壌の区画には、主にメルロが植えられ、もう一方の砂利質の台地（下層土は石灰質）に植わるのは、カベルネ・ソーヴィニョンです。かつては、やや硬く、パッとしないヴィンテージもありましたが、モメジャ家による改革のあと、特に2010年以降のワインは目覚ましい品質向上を遂げており、精密さとエレガンス、活気に満ちたスタイルへと変貌しています。リストラック・メドックで最も品質向上が著しいシャトーのひとつです。
シャトー・サランソ・デュプレ (Château Saransot-Dupré)
- クリュ・ブルジョワの格付け: クリュ・ブルジョワ・シュペリウール（2020年）
- 所有者: レイモン家
- 畑の面積: 17ヘクタール（黒ブドウ15ヘクタール、白ブドウ2ヘクタール）
- 品種構成: 59％メルロ、17％プティ・ヴェルド、15％カベルネ・フラン、8％カベルネ・ソーヴィニョン、1％カルメネール／50％セミヨン、45％ソーヴィニョン・ブラン、5％ミュスカデル
- 生産本数: 12万本
- セカンドワイン: シャトー・ペラック（Château Pérac）
1875年から、レイモン家が長年所有するシャトーです。1986年以降、イヴ・レイモンが当主で、かつては自ら醸造責任者を務めていました。代を継いだあとのイヴは、当時リストラックのワインが硬くなりがちだった原因を探るために、AOCに認定された1957年当時の植え付け記録を調査しました。その結果として、歴史的にはメルロが主力、プティ・ヴェルも今より多かったという事実を突き止め、自身の畑もその構成に倣って植え替えるという、ユニークなアプローチを実践しています。過去には精彩を欠くと評された時期もありましたが、イヴによる改革以降、品質が飛躍的に向上しました。近年のヴィンテージは、リッチで凝縮感を備えた、力強いスタイルへと変化しています。2015年ヴィンテージは、クリュ・ブルジョワ・カップで優勝を果たし、リストラック・メドックのシャトーとして初の快挙を成し遂げました。
5. リストラック・メドックのまとめ
ジロンド川左岸にある6つの村名AOCの中では、最も地味なリストラック・メドックですが、急激に進む温暖化の中、強い追い風が吹いています。そのぶん、現時点では「品質が価格を上回る」状態になっていますから、「大枚を叩かずに、本格的なボルドー赤を飲みたい」人にとって、絶好の穴場と言えるでしょう。シャトー・クラルクのみ少々値が張りますが、フルカス三兄弟や、サランソ・デュプレは、かなりのお買い得品です。いずれマーケットが反応し、価格が品質に追いつくでしょうから、手に入れるなら早いうち、このチャンスをお見逃しなく、であります。
