岩瀬大二のワインボトルのなかとそと Vol.13〜オーヴィレールから富山へ。帝王の挑戦は続く

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オーヴィレールから富山へ。帝王の挑戦は続く

岩瀬大二のワインボトルのなかとそと Vol.13〜オーヴィレールから富山へ。帝王の挑戦は続く

 

2018年から20年にかけて、シャンパーニュ業界では、シェフドカーブの移籍、抜擢、勇退という話題でもちきりでした。

パイパー・エドシック、ヴーヴ・クリコ、マム、ペリエ・ジュエ…。

名門から名門へ、俊英の抜擢や次代への継承など、私がシャンパーニュ専門webマガジン「シュワリスタ・ラウンジ」を立ち上げた07年以降、これだけ集中して顔ぶれが変わるという経験はありませんでした。

その中でも最上級の驚きを提供したのは、長らくドン・ぺリニヨンの顔として君臨してきたリシャ―ル・ジェフロワの退任と、その行く先だったのではないでしょうか。

彼が選択したのは、シャンパーニュ、ワイン業界ではなく、日本酒造り。これは予想外の展開でした。

実はリシャ―ルは数年前にすでに富山を訪れ、満寿泉(ますいずみ)で知られる桝田酒造店にて酒造りの手習いをはじめていました。

公式に、大々的にではなく密やかに、でも厳重な秘密というわけでもなく進められていたプロジェクトで、満寿泉からの限定ということで数種類の「タイプR」というリシャ―ル印の日本酒がリリースされました。

この酒を味わった時の感覚は実に面白いものでした。

不思議にシャンパーニュ感があるのです。

その理由は明確にはわからなかったのですが、造る人のセンスや技術、哲学といったものは場所を越えて反映するものなのかと、およそ学術的ではない見解ではありますが、そんなことを考えてしまいました。

でも実は…という謎解きは最後で。

そして今回、ついに登場したリシャ―ルの日本酒「IWA 5」。

異なる産地で栽培された山田錦、雄町、五百万石の酒米、5種類の酵母をブレンドして造られたというものです。

まさに彼が得意とするアッサンブラージュの世界。

日本酒でももちろんこうした考え方で造られているものはありますが主流というわけではありません。

ある意味オルタナティブ。

味わった最初の印象は、「日本酒であって日本酒ではなく、という感覚を持った、でもやっぱり日本酒」。

タイプRは「日本酒ではない要素がある、日本酒」という感覚だったのですが、さらに嬉しい混乱。

シャンパーニュのエスプリと日本酒への敬意、彼の一歩進んだ日本酒造りの足跡がしっかり作品に表現されているように感じました。

ただ、完成形というよりは、今後どんなキャラクターになっていくのか、という期待感があります。

彼のまさかの成長物語を見られるという点では、ドン・ぺリニヨンのP2のコンセプトである「成熟があるからこその次の段階」を思いださせてくれます。

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そしてもうひとつ。

ドン ペリニヨンと同様、両極端の特徴がお互いを主張しながら緊張を生み出すと同時に、それが不思議な線で結ばれ、幻想的な世界を作り出していくという世界はここでも生きています。

彼は、アンサンブルやハーモニーという美しい言葉を用いるかもしれませんが、世界のトップクラスのソリストが静かに静かに奏でる弦楽四重奏。

でも演奏している曲はエミネム。そんな美しい混沌を感じるのです。

でも、という言葉を重ねてしまいますが、それでもこの酒はストイックなものではありません。

味わってすぐに楽しく、美味しい食事の場面が浮かびました。

地元・富山のファットではなくリッチな甘みやボリュームをもった魚介、特にバイ貝を軽くバターでグリルしてライムを少し絞ったような、シンプルだけれど甘みを引き出したような一皿、そして冬ならこれも富山らしく、おぼろ昆布をふりけかけたおでん、なんてカジュアルなものとも寄り添ってくれるでしょう。

和食、フレンチといった枠だけではなく、酸とハーブと甲殻類、例えばセビーチェや辛みを抑えた青パパイヤのサラダといった、エスニックな世界も楽しめそうです。

 

ワインボトルのなかとそと。

丘の上から、峻嶮な山と恵まれた海、そして急流と名水の地へ。単にシャンパーニュでシャンパーニュを造っていた人が、富山で日本酒を造るという面白さではなく、リシャ―ルという一時代を築いた人を、日本酒、富山という視点から捉える面白さがあります。

そう、造り手の哲学というものが、場所が変わり、中の液体が変わっても現れてくるものなのかどうか。物語と哲学が味わいに現れるのか。それを知る絶好の機会といえるでしょう。

そして冒頭で謎解きは後で…と書きましたが、その謎を本人に直接ぶつける機会を得ました。ということで次回、この続きは彼のインタビューでご紹介します。

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2020.11.06


岩瀬大二 Daiji Iwase

MC/ライター/プランナー/イベント・オーガナイザーなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカー、ビール、日本酒などの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」、「酒旅ライター」。「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。お酒単体ではなく、スポーツやロック、旅、地域文化、演芸などさまざまな分野とお酒の魅力を結びつけ紹介している。

フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長
ぐるなび「IPPIN」酒キュレーター
「ヤフー!ライフマガジン」日本酒特集担当
他、ワイン専門誌や情報誌、WEBメディアでの特集企画・ワインセレクト・インタビュー、執筆。日本ワイナリー収穫祭や海外生産者交流イベント、日本最大級のスペイン祭りなどお酒と人々を結ぶイベント演出、MC/DJ多数。

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