アーバンワイナリーへ行こう Vol.1 フジマル醸造所【東京/清澄白河】

ブドウ畑のない都内近郊にもワイナリーがあるのをご存知ですか? 長距離の移動がままならない今、思い立ったらすぐに行くことができるアーバン(都市型)ワイナリーがおすすめ。今回はレストランを併設することでも知られる「清澄白河 フジマル醸造所」をご紹介。

文・写真/谷 宏美


【目次】

1.「清澄白河 フジマル醸造所」ってこんなところ
-昔ながらの町工場が残り、ものづくりの文化が息づく街

2. 醸造家・木水晶子さんが目指すワイン造り
-栽培農家の大切なブドウを飲み心地のよいワインに
-デラウェアへの思い
-コラボシリーズの取り組み

3. ワイナリーの1年

4. ここで飲みたい1本
-本格イタリアンも併設

5. ワイナリーDATA


1.「清澄白河 フジマル醸造所」ってこんなところ

フジマル醸造所

フジマル醸造所

-昔ながらの町工場が残り、ものづくりの文化が息づく街

ブドウ畑の代わりに、美術館やギャラリー、センスのいいカフェやビストロが点在する街、清澄白河。そんな街の一角にワイナリー&レストラン 「清澄白河フジマル醸造所」がオープンしたのは2015年。かろうじて控えめな看板はあるものの、通り過ぎてしまいそうな極めて普通の低層ビルです。もともと鉄工所だった建物の1階に醸造所、2階にテイスティングルームと本格イタリアンレストランを併設し、各地のブドウ栽培農家が作るブドウを原料にワインを造る”都市型ワイナリー”。レストランを利用すると醸造所を見学することができます。

こちらのワイナリーのルーツは大阪にあります。大阪市内のワインショップのオーナー、藤丸智史さんが、大阪府柏原市に約2ヘクタールの農地を借り受けたのがはじまり。耕作放棄地を開墾したり、ブドウの木ごと借りたりしてブドウの栽培をスタートします。2013年に大阪市内に設立した『島之内 フジマル醸造所』で、自社管理畑のブドウとともに質の高い契約農家のブドウも使ってワイン造りを開始。街の真ん中で造られるワインは評判を呼び、契約農家の軒数も増えたため、関東にも拠点を作ることに。都心にありながら空が広く、近くに川も流れる清澄白河は、古い町工場が今も残り”ものづくり”の文化が発展してきた街。国内外からのアクセスも至便でもあるこの地に「清澄白河 フジマル醸造所」が建てられたというわけです。

 

2. 醸造家・木水晶子さんが目指すワイン造り

「清澄白河 フジマル醸造所」醸造責任者、木水晶子さん

 

-栽培農家の育てたブドウを、飲み心地のよいワインに

年間で1万5千本から2万本を生産。鉄工所だった建物をそのまま使っているワイナリーには、天井にその名残であるクレーンがぶら下がっているのがユニーク。プラスチック樹脂製の発酵槽やステンレスタンクがところ狭しと並び、瓶熟中のボトルの奥にはフレンチオークの樽も。大型プレスマシーンも置かれていますが、ブドウが少量ずつ届いたときはバスケットで搾ることも多いそうです。

居並ぶステンレスタンクの上にクレーンが。

2020年現在、清澄白河で扱うのは山形や茨城、千葉、山梨の契約農家が栽培するデラウェアや巨峰、マスカットベーリーA、さらにメルロー、ソーヴィニヨン・ブランなどの欧州品種。「農家さんが精魂込めて大切に育てたブドウの個性を生かして、飲み心地のいいワインを造りたい」醸造家の木水晶子さんは言います。ニュージーランドや北米のオレゴン州、カナダオンタリオ州などで研修し、清澄白河でのワイナリー立ち上げから参画する木水さんは、ワイナリーレストランでの接客もこなすほか消費者向けイベントでの登場も多い、フジマル醸造所の顔。ブドウのプロである熟練の農家さんとの協業により、その年ごとに質の高いワイン造りを目指しています。

 

-デラウェアへの思い

木水さんがとりわけ大切にしているのがデラウェア。フジマル醸造所では人気の新酒「テーブルトップ」をはじめ、多くのアイテムをラインナップしていて、「生食用ブドウだからこそ、ほかにない特徴がある」と言います。「たとえば、皮に味わいがあるのでしっかりと絞っても苦味が出たり薄まったりしないし、漬け込んでオレンジの色を出しても面白い。日本で多くの人が育てているので土地にも合っているということでもあるし、もっともっと可能性を追求できるブドウだと思っています」(木水さん)。だからといって、高級レンジに広げるのではなく、「テーブルトップをよりおいしいものにできるようトライしていきたい」とのこと。ヴィンテージごとに味わいを比べていくのも、楽しいかもしれません。

 

-コラボシリーズの取り組み

自家醸造ワインのほか、栽培家にフォーカスした「ファーマーズシリーズ」や、親しい生産者とのコラボワインも手がけています。たとえば、ヨーロッパ品種に特化した山梨の農業法人「シティ ファーム」からくる質の高い欧州品種を用いたハイグレードなワイン。ニュージーランド・セントラルオタゴ「サトウ ワインズ」の佐藤夫妻とは、帰国時にワイナリーで仕込み、貯蔵タンクに入れるところまでを一緒に行い、その後リモートでテイスティングなどを繰り返して、木水さんがフィニッシュ。醸造過程においても妥協を許さない佐藤さんのスタンスはとても勉強になるのだそう。
※2020年は佐藤さんの帰国が叶わず、コラボワインは造られなかった。

瓶熟庫にて

 

3. ワイナリーの1年

ワイナリーに並ぶプラスチック樹脂の発酵槽やステンレスタンク、フレンチオークの古樽

「清澄白河 フジマル醸造所」の1年はこのように過ぎていきます。訪問の際に参考に。
※品質管理のため、瓶詰時など見学不可の場合もありますので、見学希望の際は必ずご確認ください。

◆1月〜3月:前の年の仕込みが一段落する時期。新酒のリリースなどワインの販売やプロモーションで忙しくなりますが、ワイナリー自体は落ち着いているのでゆっくり見学するにはいい季節。今期の収穫の様子や、ブドウの出来などの話が聞くことができます。
大阪の自社畑ではブドウ樹の剪定が行われ、ブドウの1年がスタートします。

◆4月〜7月:各地で日本ワインのイベントなどが盛んに行われる時期。藤丸さんや木水さんもゲスト醸造家としてさまざまなところに出向き、登壇したり取材を受けたり。畑ではすくすくとブドウが成長しています。この頃に瓶詰めされるワインも多くあります。

◆8月〜9月:収穫、仕込みで、ワイナリーがもっとも活気づく時期。連日のように自社畑や各地の契約農家からブドウが届き、搾汁、アルコール発酵と醸造作業が続きます。醸造所ではその様子を見学することができますが、非常に忙しいため、作業の邪魔にならないように気をつけて。

◆10月〜12月:仕込みがほぼ終わり、タンクの中にアルコール発酵を終えたワインが、木樽では熟成中のワインが眠っている状態。テイスティングルームやレストランでは造りたての新酒を生樽から飲むことができるので、ぜひトライして。

 

4. ここで飲みたい1本

フジマル醸造所のワインといえば、なんといってもデラウェア。自社畑でも栽培し、契約農家で作られる上質なものも合わせて多くのキュヴェがあります。レストランでは造りたてのワインが飲めるほか、『島之内 フジマル醸造所』をはじめ世界中からセレクトされたワインを買うこともできます。

〔以下取材時に在庫のあったもの。在庫はワイナリーおよびショップへお問い合わせください〕
◇テーブルトップ デラウェア 新酒 (白)¥2,100(=写真右)
収穫したてのブドウで造る人気の新酒。2020年は山形県山形市「ぶどうと活きる」のデラウェア100%使用し、フレッシュな青デラと完熟したデラウェアをブレンド。爽やかながら肉厚なアタックをもつ、深い味わいに仕上がった。

◇デラウェア by Sato 2019(白)¥2,800(=写真中)
ニュージーランド「サトウ ワインズ」の佐藤さんが東京で醸すワイン。香りが上品で伸びやかな酸のある山形・置賜産のデラウェアを18日間かけてゆっくりと低温で発酵。透明感がありながら飲みごたえのある、ワンランク上のデラウェア。

◇ファーマーズ カベルネ・ソーヴィニヨン シティ ファーム 2019(赤)¥3,800(=写真左)
山梨「シティ ファーム」の完熟したカベルネ・ソーヴィニヨンを除梗破砕し、野生酵母で発酵。フレンチオークの古樽で10カ月熟成。黒系果実のニュアンスとふくよかなタンニン、キレのよい酸のバランスがとれた味わい。

 

-本格イタリアンも併設


併設するレストランでは、リストランテ出身のシェフによる本格イタリアンをカジュアルにいただくことができます。肉や魚、野菜などの素材の多くは生産者の顔が見えるもので、旬の素材を用いた季節ごとのお料理が楽しめます。その中で、農家さんから届くカラフルな野菜の盛り合わせ、石黒農場のほろほろ鳥が主役の前菜は定番の人気メニュー。ワイナリーレストランならではの樽出しワインと楽しんで。

(写真手前)石黒農場のほろほろ鳥の低温調理 サワークリームとアンチョビのソース ¥1,700
(写真奥)契約農家さんから届いたいろいろなお野菜の盛り合わせ ¥1,400

 

5. ワイナリーDATA

ワイナリーデータ
【清澄白河フジマル醸造所】
東京都江東区三好2-5-3
Tel.03-3641-7115
基本営業時間/
(感染拡大防止対策に基づく変更の可能性がありますので、ご来店時は事前に店舗に必ずご確認ください)
〔レストラン〕11:30〜14:00(L.O.)、17:00〜21:30(L.O.) 23:00(Close)
ワイナリー見学は営業時間内に申し出てください
〔ワイン販売・テイクアウト〕11:30〜21:30(L.O.)
定休日/月曜日、火曜日(祝日の場合は翌水曜日)
https://www.papilles.net/shop_restaurants/

谷 宏美/Hiromi Tani 

ワインライター/エディター。ファッション誌のビューティエディターを経てフリーランスに。ワイン・フード・ビューティのジャンルでコンテンツ制作・執筆を手がけつつ、夜は渋谷のワインバーでサービスを行う二足ワラジワーカー。パートナーは人間ひとりと猫4匹、目下の課題は未だ見終わっていない『麒麟がくる』を早くコンプリートすること。J.S.A.認定ワインエキスパート。

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