堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.22

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シャンパーニュにおける、ビオ(ディナミ)とサステイナブルの違い……に行く前に

堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.22

 

私が学生時代の頃、父が言ったことがある。

「世界中どこに行っても恥をかかないためには、ワイン、芸術、音楽。この中のどれかひとつでも精通しておきなさい」。

今考えるとそれは、某大手新聞社で営業マンとして苦労した父の欧米寄りな処世術ながら、芸能人を格付けするバラエティ番組などで必ず「ワイン・芸術・音楽」がお題に出るのは、数値化できない嗜好や美しさを、教養や生まれ持ったセンスとすり替える、良くも悪くも面白さがあるのだろう。

フランスのワイン産地を見渡すと、ほぼどの産地にもヒーローがいる。

あるブルゴーニュの著名生産者曰く、「ブルゴーニュを電車に例えると、先頭車両はトップドメーヌ。このトップドメーヌのイメージがあるからこそ、ブルゴーニュ全体のワイナリーが先頭車両によって牽引される。

言い換えればヒーローが生まれなければ、その産地は注目されない」。

その意味で、もっともブランドイメージが高いのはシャンパーニュとボルドーだろう。

トップはトップなのだから、全体における比率は非常に低い。しかしそのトップが見せつける豪奢さがハンパではない。

ブルゴーニュも今となっては世界的な酩醸地ではあるが、たった50年前には買い漁るコレクターもいなかった。

しかし規模の小ささが幸いした。

ヨーロッパでは一部のトップドメーヌは「オートクチュール」と呼ばれ、かたや少なくとも日本人は、トップドメーヌではなくとも「職人技ともいえる手作り感」に強く心を打たれた(それは所謂ヴァン・ナチュール愛にも似ている)。

話は逸れるが、このコロナ禍においてキッチリとブルゴーニュを購入し続け、購入額が伸張している輸入国は恐らく日本だけである。

なぜなら日本人は翌年の購入枠を確保するために、いかに困難なヴィンテージでも買い続ける。

一方で某国はワイン評論家が絶賛する銘柄とヴィンテージをピンポイントで買い求めた挙げ句(要するに評価されていないものは買わない)、報復関税を課した。

その某国と対抗する大国は経済のアップダウンが、もろにワインを含む欧米の嗜好品への購買力を低下させた。

生真面目に買い続けるフランス国内や日本、昔からブルゴーニュへの理解がある国に支えられながら、非常に乱暴に言えば、ブルゴーニュはブランドイメージを発展させながらも、希少価値を高め、世界経済・政治による被害を規模の小ささによって最小に食い止められたと言えるだろう。

ボルドーのプリムールに関しては、ボルドーはこのコラムでは書いていないものの、プリムールの価格はほぼ株価と連動する。

ではシャンパーニュは?

過去20年間を振り返ると、リーマンショックなどの困難を乗り越えつつ、誰もが知る著名メゾンは価値と価格を上げてきた。

リーマンショック以前に、「それでもこの場には、シャンパーニュがあらねばならぬ」という概念を消費者に叩き込んだからだ。

有名ゆえ本場フランスでも泡ものを注文する時に、若いサービスの人に、「シャンパーニュじゃなくって~。クレマンかペティアンある?」と確認しなければならない面倒くささはあるが(泡もの=シャンパーニュと思い込んでいる人も未だにいて、それがシャンパーニュ地方の苛立たしさでもあり、消費者にとってはこの三択で価格はまったく違ってしまう)、コロナ禍による値下げが見られる昨今において、個人的には「ブランドイメージを守る」という意味では、ボルドーよりもさらにシャンパーニュは強い。

これでも書き足りないが、ここまで書いて、やっと本題である「シャンパーニュにおける、ビオ(ディナミ)とサステイナブルの違い」を次回に書きたい。

そこにはブランドイメージを守るという、強い意志がある。

2020.07.17


堀 晶代 Akiyo Hori

J.S.A.認定シニアワインアドバイザー、栄養士。
酒販店でのワイン販売を経て、2002年に渡仏。現在は大阪とパリを拠点に、ワインライターとしてフランスやイタリアを訪問。生産者との信頼関係に基づいた取材をモットーにしている。
おもに「ヴィノテーク」「ワイナート」などの専門誌に寄稿。
著書に「リアルワインガイド ブルゴーニュ」(集英社インターナショナル)など。

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