葉山考太郎の新痛快ワイン辞典 Vol.29

葉山考太郎,ワイン,ボキャブラリー,辞典,ワイン用語

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葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特 有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「も」で始まる語をお届けします。

見出し語について

(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー

(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー

(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート


■も■

モエ・エ・シャンドン (Moet et Chandon)

シャンパーニュ全体の16%を作る超巨人。世界のどこかで2秒に1本開いているらしい。創業1743年の老舗で、ルイナール社に次いで古い。同社の「アンペリアル(皇帝)」は、ナポレオンから直々にレジョン・ド・ヌール勲章をもらったことを記念したもの。1930年にメルシエ社から「ドン・ペリニヨン」という商標を買い、聖職者の崇高なイメージと、シャンパーニュ改良の大功労者の雰囲気をゲット。以来、ペリニヨン師はモエ社の営業部長に就任している。

 

モーゼルとラインガウ

ドイツを代表する2つのワイン。これを見分ける方法には、次の二通りがある。①プロ用:香りや味が、若い娘のようにフレッシュで軽くフルティーならモーゼル、30代の女性のように色気があって熟していたらラインガウ。②アマ用:ボトルをチラリと見て、グリーンならモーゼル、茶色ならラインガウ。この色の印象で、ラインガウは長期熟成用、モーゼルはフレッシュな早飲み用と思い込む。(関連項目:ブラインド・テイスティング、ボトルの法則)

 

モーパイ (盲牌)

ブラインドの試飲で、紙袋に入れてラベルを隠したボトルからグラスにワインを注ぐ場合にさり気なくボトルの肩を触り銘柄を探ること。怒り肩か撫で肩かでボルドー系かブルゴーニュ系かわかるし、ピション・ラランド、ラスコンブ、ジスクール、オー・ブリオン、パプ・クレマン、シャトーヌフ・デュ・パプ、カルタ・ワインなどは紋章を型押ししたボトルを使うので、触るだけでわかる。初心者相手にズバズバ当てると「スッゴーイ」と感心してくれる。(関連項目:ブラインド・テイスティング、キャップシールの色)

 

もちこみワイン(持ち込みワイン)

レストランやワイン・バーに自分のワインを持ち込むこと。店側は、「いいですよ」と言いながら、最も儲かる酒を頼んでもらえないので、実はちっとも嬉しくない。で、店側も客側も嬉しい「最良のワイン持ち込み」が、居酒屋の「飲み放題」を利用すること。店側は、客が持ってきたワインを勝手に飲んでくれるので、飲み放題料金は丸儲け。客は、一人1,500円も払えば何本でも持ち込めるので嬉しい。問題は、店側が良いワイン・グラスをたくさん用意できるかどうか。酒屋でくれるオマケ・グラスが一人一個というパターンが多いので、リーデルのグラスも持ち込むとよい。

 

もちよりワイン・パーティーのほうそく(持ち寄りワイン・パーティーの法則)

法則その1:持ち込んだワインは余らない。2本持って行き、状況によりどちらか開けようと思っても、必ず両方開く。高級ワインを買ったその足でパーティーに行き、見せびらかすのは自殺行為。法則その2:不思議だが、同系統のワインは重ならない。50人のシャンパーニュの持ち寄りで、メゾンが被らないのは当たり前。法則その3:参加人数が増えると、一人の飲む量が増える。2人で1本、4人で4本、6人だと8本は空く。理由はナゾ。法則その4:パーティーは、ワインを飲み尽くしたころから面白くなり、終電がなくなる頃から「ドラマ」が生まれる。

 

もっこうじょ(木工所)

ワイン通が、樽香のつきすぎた超厚化粧ワインをけなすときに必ず出てくる言葉。「コテコテ」と同じ意味。例えば、「木工所で割り箸をかじりながら飲んでいるみたいな樽香だなぁ」のように使う。(関連項目:アメリカン・オーク、オーク、コテコテ、新樽300%、樽香、フレンチ・オーク)

 

モデル・ハウス

大手建築業者が住宅展示場に建てる展示用の家。モデル・ハウスの建築費、維持費は住宅の建築価格に転嫁するのが普通(価格の2~5%)。有名シャトーの場合、訪問者に飲ませるワインの量が全体の10%にも上るらしい。もちろん、この分は価格に転嫁されている。

 

モネ (Claude Monet)

1840年-1926年。「睡蓮」で名高いフランス人画家。パステル調の色がキレいなので、日本で大人気。1899年から20年以上、睡蓮ばかり何百枚も描いた。これだけ大量に描くと「マンネリ」ではなく「生涯のテーマ」と言ってもらえる(ゴッホも『ひまわり』をたくさん描いた)。画家には珍しくモネにはビジネスの才能があり、絵を高く売ってしっかり稼ぐ。ヴーヴ・クリコが好きだったそうで、絵描き仲間を招いてはシャンパーニュ・パーティーを開いた。レオナール・フジタ(藤田嗣治)もお呼ばれしたらしい。(関連項目:藤田嗣治)

 

もらいもののワイン

ワイン通がセラーの扉を開けて、「ホラ、これ、プレゼントだよ」と気軽にくれるワイン。この手のワインは、愛好家のコレクションの「中の下」と思って良い。愛好家は、「下」レベルのワインを持っていると隠したがるし、「上」レベルをくれる訳がない。

 

モレ・サン・ドニ (Morey St.-Denis)

ブルゴーニュ地方コート・ドール地区にある村。プロは短く「モレ」と呼ぶ。北をジュヴレイ・シャンベルタン村に、南をシャンボール・ミュジニー村というスーパー・スターに挟まれているため、北川景子と石原さとみに挟まれた相武紗季みたいな感じ? 単独なら物凄いのに、ピカピカの二人に挟まれると、ちょっと影が薄くなる(でも、実力的には同じレベルだぞ)。メドック地区なら、ポーイヤックとマルゴーに挟まれたサン・ジュリアン村みたい? 貧乏人がブルゴーニュの良い生産者の特級ワインを買えるとしたらモレ・サ・・ドニ村かも。(関連項目:クロ・ド・ラ・ロシュ)

 

もんぜんのこぞう(門前の小僧)

意外な場所にいる超級物知りの人。例えば、アカデミー・デュ・ヴァンでワインを準備するバックヤードのオネエサンとオニイサン。授業で余ったワインを飲めるので、日本で(世界で?)一番ワインを知っているに違いない。「コス・デストゥルネルは、2000年に入ってから、急激に品質が上がったなぁ」とか言ってそう。

 

モンラシェ (Montrachet)

世界で一番高価な辛口白ワイン。ブルゴーニュで作る。畑は8ヘクタール弱で、甲子園球場2つ、プラス、50mプール2つ分しかない。年産は2,500ケースと、「雀の冷や汗」ぐらい。 DRC、ルフレーヴ、ラフォンのようにトップレベルの生産者が作る物は世界中のレストランや愛好家が、トラックに札束を積んで奪い合うので、1本数十万円もする。ナッツと蜂蜜にバターを溶かし込んだ風味があり、これを10年、20年と熟成させると、まさに「神の酒」になる。これに取り付かれると「モンラッシェ中毒」になり、回復は不能 (特に、経済的に)。(関連項目:バタモン、ビアンヴニュー・バタール・モンラシェ、DRC)

 

モンラシェこうぼ(モンラシェ酵母)

世界中で超人気のシャルドネ用酵母。ピュリニー・モンラシェ村の野生酵母から抽出したものらしい。これも名前の勝利で、「コート・ド・ボ-ヌ酵母」では売れなかっただろう。(関連項目:モンラシェ、野生酵母)

 

モン・リュイザン (Mont Louisant)

エレガント系赤ワインの聖地であるブルゴーニュ、コート・ド・ニュイ地区、モレ・サン・ドニ村にある5.4haの畑。「紋龍山」と漢字で書けそうな名前が面白い。上部は村名畑で、中央部が1級、下部が特級のクロ・ド・ラ・ロッシュと3つに分かれる。この中で圧倒的に有名なのがポンソが所有する1級の「クロ・デ・モン・リュイザン」。昔は、アリゴテ、シャルドネ、ピノ・グ―ジュ(アンリ・グ―ジュが交配したブルゴーニュの土着種)を植えていたが、1993年にピノ・グ―ジュを、2004年にシャルドネを引き抜き、2005年からはアリゴテ100%になる。ニュイ地区の白で、しかも、シャルドネが0%は超稀少。なお、2000年からデュジャックがシャルドネ100%で1級のモン・リュイザンを作っており、また、ドメーヌ・デ・モン・リュイザンは、赤のモン・リュイザンを作る。この3本の「モン・リュイザン詰め合わせ」をプレゼントすると、同じ区画なのにブドウの品種が全く違う珍品なので、マニアは狂喜乱舞するかも。

2020.06.26


葉山考太郎 Kotaro Hayama

シャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター。ワイン専門誌『ヴィノテーク』等に軽薄短小なコラムを連載。ワインの年間純飲酒量は 400リットルを超える。これにより、2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエを授章。主な著書は、『ワイン道』『シャンパンの教え』『辛口/軽口ワイン辞典(いずれも、日経BP社)』『偏愛ワイン録(講談社)』、訳書は、『ラルース ワイン通のABC』『パリスの審判(いずれも、日経BP社)』。

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