ボルドー左岸のメドックでは、17世紀に、オランダ人による沼地の干拓でブドウの栽培が拡大。18世紀には、クリュの概念が生まれ、ワインはロゼと赤ワインの中間色のクラレットから、徐々に色も濃く、高品質なワインが造られました。そして、19世紀には、有名な1855年の格付けが登場。
サン・テステフはコミューナル・アペラシオンとしては、最北部に立地。北にバ・メドック。南にはジロンド河に流れ込む小さな支流ブルイユ川を挟んで、ポイヤックと向かい合っています。1級シャトーはないものの、ハートのラベルで有名なカロン・セギュールをいただくこの産地。今回は、サン・テステフに注目します。
【目次】
1. 土壌を深堀り~サン・テステフの・ブドウ品種と台木
2. AOC規定は時代にあっているのか
3. スーパーセカンド・~コス・デストゥネル
4. ルーツは一緒~モンローズとカロン・セギュール
5. 海洋性気候でのオーガニックへの挑戦
6. お値段以上の5級~シャトー・コス・ラボリ
7. サン・テステフのクリュ・ブルジョワとその他の注目シャトー
8. サン・テステフのまとめ
1. 土壌を深堀り~サン・テステフの・ブドウ品種と台木

カベルネ・ソーヴィニヨン
砂利土壌のペイロソル。高品質ワインを生産するボルドーのシャトーの畑では半分弱を占めます。もう一つ重要なのが、プラノソルという土壌。下層土が重い粘土質で、表土は、砂質若しくは砂利質の土壌。
カベルネ・ソーヴィニョンは、水はけの良いペイロソル土壌での栽培が主流。台木は、樹勢が弱く、根は浅く張り、湿潤環境に強いリパリア・ロワール・ド・モンペリエを最活用。しかし、最近では干ばつの影響から、樹勢は控えめながら、乾燥環境にある程度耐性がある420Aの活用も進んでいます。

メルロー
メルロは、ペイロソル土壌と共に、保水性の高いプラノソル土壌での栽培も。比較的、均等に台木は使用。リパリア・グロワール・ド・モンペリエに加えて420Aでの栽培も目立ちます。
メルロは、プラノソル土壌で、リパリア・グロワール・ド・モンペリエを使用した場合と、ペイロソル土壌で420Aの台木を使ったもの。これらが、最も品質が高いというのが、ボルドー国立農業技術学院の研究結果となっています。
アカデミー・デュ・ヴァンで勉強した通り、やはりメルロは、保水性のある土壌が好き。乾燥に耐性がある台木に親和性がありそうです。
とは言うものの、この2つの台木だけ使えば良いというものではありません。収量の観点では、161-49Cや101-14MGがより多産。栽培年数によっても、品質の良し悪しと台木の関連性は変化します。畑の実際は、必ずしも単純な論理では決まりません。
サン・テステフは、ポイヤック、サン・ジュリアンやマルゴーと比べて粘土質の土壌の割合が多いのが特徴。石灰岩質の上に、重い粘土質が覆う土壌が広がります。水はけに劣り、ブドウの成熟も遅れがち。酸が上がり気味となります。こうした土壌ですから、晩熟のカベルネ・ソーヴィニョンよりもメルロに有利に働きます。
カベルネ・ソーヴィニョンは、厳格なワインになり、長期熟成が必要となりがち。完熟するのが大変で、粗っぽいタンニンと青臭さに強い特徴がありました。結果、メルロの栽培面積を拡大。柔らかさや果実味を備えたワイン造りへと転換が進みました。
一方、近年の温暖化による、暑く乾燥した天候のヴィンテージ。他のコミューナル・アペラシオンよりもダメージを受けにくく、それでも、アルコール度数は14パーセント程度。豊かなカベルネ・ソーヴィニョン中心の素晴らしいワインが生まれることが多くなっています。
そして、もう一つ押さえておきたいのが、テラスと呼ばれる丘陵。標高や土壌がテラスによって異なってきます。地質学者のピエール・ベシュレーが、1980年代から1990年代に研究。最も地質年代が古いテラス1から最も若いテラス6に分類されています。そして、テラス3と4が多くの有名シャトーが連なる最良の立地とされています。
テラス3は、1級シャトーで言えば、ラフィットにムートン。サン・テステフでは、コス・デストゥネル。テラス4は、1級で言えば、ラトゥール。サン・テステフでは、モンローズに多く見られます。テラス3の方が、標高が幾らか高く、粘土質が表土に少ない為、水はけは特に良く、深い土壌。テラス4は冷たく保水性のある鉄分の層の存在が特徴。モンローズは、2023年から、テラス4からのみグラン・ヴァンを造る旨を宣言。各シャトー共に、自身の畑の土壌には大いに自信を持っています。
こうした土壌の特徴は、ヴィンテージによっても影響が変わります。2014年以降は、2017年は秋口の雨や冷え込みで少し厳しい年でしたが、一般的には2020年に至るまでは外れがありません。それ以前は、2009年、2010年、2005年辺りは素晴らしいヴィンテージで有名ですね。サン・テステフの生産者からは、2016、2018、2020年を勧める声が聞こえます。
2. AOC規定は時代にあっているのか
ほとんどのシャトーのブレンドの中心はカベルネ・ソーヴィニョン。ですが、メルロをブレンドの中心に据えるシャトーも。
クリュ・ブルジョワのシャトー・オー・マルビュゼは、その良い例。ヴィンテージ次第ではありますが、右岸のサンテミリオンのように、メルロがブレンドの最大の割合を占めます。協同組合のマルキ・ド・サン・テステフは、1934年以来の歴史を持ちます。赤ワインとロゼを生産していますが、キュヴェに依っては、メルロが過半を占めるワインも。
ボルドー左岸だからと言って、必ずカベルネ・ソーヴィニョンが主体でなければならないという規定はないのです。守旧派の中心と目されるボルドーにしては、柔軟。
しかし、その一方、近年、ボルドーでは、伝統的な格付けからの離脱の動きが目につきます。ポムロールの有名シャトーである、ラフルールは最近、ポムロールどころかボルドーのアペラシオンからも離脱。ワインをヴァン・ド・フランスとして、販売することを公表しました。温暖化の激化には柔軟にワイン造りに対処しないと上手く行かないという、抗議にも感じます。
1935年のフランスのアペラシオン規定の制定。当時の農業大臣、ジョゼフ・カピュスが、地理的名称の保護だけでなく、粗悪品の横行から品質基準を守ろうとしました。
そして、INAO(国立原産地名称研究所)によって、制度化。単なる産地表示ではなく、ブドウ品種、栽培方法、収穫量、アルコール度数など細かく規則を定めました。品質保証を重視する仕組みとして確立したのです。それが、90年の時を経て、時代にそぐわなくなりつつあるのかも知れません。
気候変動の中で、灌漑の柔軟な適用、植栽密度の低減や、樹冠管理の柔軟な運用などに、アペラシオンの規定が障害となってきている可能性がある訳です。
例えば、植栽密度は2035年までの経過措置以降は、ヘクタール当たり7000本。温暖化が進展する中で、ブドウ樹の必要な水分の供給や、かび病などの蔓延を抑える意味で、厳しい規定と言えます。
一部、ポルトガル品種のトゥーリガ・ナショナルやアルヴァリーニョなどの使用が認められたことは進歩。ですが、使用が認められたボルドーAOCやボルドー・シューペリオールAOCでも、実際は栽培では5パーセント、ブレンドで最大10パーセント未満しか使用が認められていません。
粘土質の冷たい土壌が、温暖化を背景に利点になりつつあるサン・テステフ。ですが、果たしてこれから20年、30年の後はどうなるのでしょうか?
3. スーパーセカンド・~コス・デストゥネル
サン・テステフは、多くの小規模ワイナリーが存在。でも、格付けシャトーは大手ばかり。最新の醸造設備の導入などには資本力や、規模の経済も必要。格付けシャトーで最も小さい5級のコス・ラボリも、16ヘクタール。これはちょうど、サン・テステフの平均栽培面積に当たります。ブルゴーニュの平均栽培面積6~8ヘクタール程度とは倍半違います。
サン・テステフの格付けシャトーは、5つ。コミューナル・アペラシオンの中で、最少です。最多のポイヤックの3分の1にも届きません。ですから、この際、5つまとめて憶えてしまいましょう。
2級コス・デストゥルネルと4級ラフォン・ロシェ、5級シャトー・コス・ラボリは、南のポイヤックとの境界に近い立地。もう一つの2級のモンローズは、中部のジロンド河流域に近く、3級カロン・セギュールは、北部のサン・テステフ市街地に近い所にあります。

コス・デストゥルネル
コス・デストゥルネルは、格付け1級に肉薄するスーパーセカンドの筆頭。高級ホテルやリゾート、ウェルネスセンターを手広く展開する実業家ミシェル・レィビエの所有。コンサルタントをエリック・ボワスノが務めます。
古い伝統を持ちながらも革新を忘れません。
2005年にリリースしたコス・デストゥルネル・ブラン。元はカベルネ・ソーヴィニョンを栽培していたブドウ樹をトップ・グラフティング。台木部分はそのまま活用して、穂木をカベルネ・ソーヴィニョンからソーヴィニョン・ブランに変えたのです。
この他にも、セカンドワインの、レ・パゴド・ド・コスに加えて、最近注目だったのは、COS100。1915年に植栽されたメルロを使い、100周年の2015年のヴィンテージをリリース。3リットルのダブルマグナムと、12リットルのバルタザールという大型のボトルで限定生産されました。
現在は、100ヘクタールの畑の3分の2でカベルネ・ソーヴィニョンを栽培。サン・テステフを代表するグラン・クリュ2級ですが、実は、サン・テステフというより、ポイヤック寄りの砂利質土壌。南向きの畑から良く熟したカベルネ・ソーヴィニョンが収穫されます。
そんなコス・デストゥネルでも、2000年代前後にはブドウの完熟の為に、摘房など様々な工夫をしていました。土壌調査を行い、細かい区画に分割して管理。それぞれの区画に沿った醸造設備を準備しました。オリエンタル調の目立つパゴダ(仏塔)をシンボルに持つ、派手な外観とは異なり、地道な品質改善の努力を続けてきたのです。
醸造設備にはグラヴィティ・システムを大々的に採用。通常のワイナリーでも、収穫したブドウの醸造設備への移動にはコンベヤなどを使い、階下に設置したタンクへ重力を使って移動。
ここまでは珍しいことではありません。
でも、お金があるシャトーは違います。4千万ドルを掛けたというコス・デストゥネルの醸造所では、1基辺り100ヘクトリットルを移動できる大型エレベーター4基を設置。それ以降の果帽管理で、デレスタージュをする際にも、ポンプを使いません。
丁寧にブドウを扱うことで、不用意にブドウの種を潰してしまい、荒々しいタンニンを意図せず抽出してしまうことが避けられます。ブドウの繊細な香りや味わいも損なわないのです。
先進的で裕福なボルドーのシャトーは、如何にも商業的なワイン造りをしていると思われがち。でも意外に醸造に天然酵母を使用しています。
ただし、新樽の使用率は、6割程度。新樽使用の減少方向にあるブルゴーニュと比べれば明らかに贅沢。ですが、繊細なピノ・ノワールと、力強く豊満なボルドーブレンド。樽の使い方が異なるのも当然ではあります。
4. ルーツは一緒~モンローズとカロン・セギュール
モンローズ
もう一つの格付け2級シャトーのモンローズ。文字通り直訳すると、ピンク色の山。ツツジ科のピンク色のヘザーが咲いていた緩やかな土地に因んだ名称です。
このシャトーは、その昔、セギュール侯爵が所有していた広大な土地の一部。今のカロン・セギュールもモンローズも含んだ土地です。19世紀初めの所有者のエティエンヌ・デュムランがカロン・セギュールを売却したことで誕生したのが、モンローズ。
そして、やはりシャトーでは、如何にオーナーが、愛情と資金を投下したかが良い結果を出すには大事。毛並みの良い社長がトップの座に座ります。
2006年に、フランスの建設、メディア・通信事業のコングロマリット、ブイグのトップ、ブイグ兄弟によって買収。
すかさず、シャトー・オー・ブリオンの支配人を務めていたジャン・ベルナール・デルマスを起用。後には、ムートン・ロートシルトの社長を務めたエルヴェ・ベルランを、その次には、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズのマネージング・ディレクターだったピエール・グラフィーユをCEOに任命。ボルドーの血統書付きの綺羅星のような人財で経営陣を固めてきました。
栽培長のパトリシア・ティナックが土壌の3次元解析、抵抗率、ドローンの活用など様々な調査を実施。収穫時期を細かく区分けして、最適なブドウの成熟を期しています。
最近は、さらに気候学者と地質学者も起用。気候変動に関連した土壌調査を実施しました。温度や湿度センサーを畑に設置。生育サイクルの変化や、かび病や干ばつの影響を調べています。
最近、過熟になりがちなメルロ。クローンの選択を検討するのが一つの手法ですが、モンローズでは、自社畑の古木からマーサルセレクションを採用。
カロン・セギュール
3級でありながら、誰もが知っているカロン・セギュール。そのカロン・セギュールで有名なのは、もちろんラベルに映えるハートのシンボル。17世紀末から18世紀のフランス貴族で、別名ブドウ畑の王子。セギュール侯爵の最愛のシャトーとも。ラフィットやラトゥールのワインを造っているが、自分の心はカロンにあるとの名言を残しています。

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現在は、フランスの保険企業グループのクレディ・ミュチュエル・アルケア傘下のスラヴニールが所有。ヴァンサン・ミレをシャトー・マルゴーより引き抜き、ジェネラル・マネージャーに据えています。
こちらでも、やはりグラヴィティ・システムを活用。収穫したブドウを2階で受け入れ、除梗、選果の上で一度10℃程度まで冷却。その後、階下の発酵槽へとポンプを使うことなく、重力で落とし込みます。
コス・デストゥネルのようなエレベーターは有していませんが、パンチダウンは止めて、控えめなポンプオーヴァーを果帽管理に採用。グラン・ヴァンは、贅沢に100パーセント新樽。
畑の方は、植栽密度はヘクタール8000本程度。歴史的には多かったメルロの栽培面積を減らす一方で、カベルネ・ソーヴィニョンを拡大。1万本に向けて増やして行く方針です。
そもそも、ヘクタール当たり1万本程度あった植栽密度が60年代に半減。その後、オーナーが変わり植栽密度が戻りつつあった所を、ミレが原点に回帰させているのです。機材に掛かる費用や労働力は当然、必要とはなります。ですが、植栽密度を増やした方が、ブドウ樹間の競争で、凝縮感が得られるという論理。温暖化の影響は大丈夫なのでしょうか?また、ブドウの抵抗力を上げる為に、モンローズと同様に、マーサルセレクションを進めています。
5. 海洋性気候でのオーガニックへの挑戦
格付け4級のシャトー・ラフォン・ロシェ。シャトー・ポンテ・カネも所有するテスロン家が1959年に買収。荒廃したシャトーの再生に力を尽くしました。2021年には、不動産王で、フランスのラグビーチームのラシン92のオーナー、ジャッキー・ロランゼッティが買収。
シャトー・ペトリュスの醸造に携わってきたジャン・クロード・ベルエが2012年からコンサルタントを務めています。2020年ヴィンテージは、このボルドー右岸を代表するベルエと、メドックで数多くの一流シャトーのコンサルタントを務めるエリック・ボワスノが力を合わせたブレンド。ボワスノは、ブレンドを多くの打ち手を考える知的なチェスゲームになぞらえる著名なコンサルタント。それで、お値段も1万円を切ったお手頃価格。是非手に取ってみたいですね。
HVE(環境価値重視)認証を含めて持続可能なブドウ栽培には積極的に取り組んでいるボルドー。2024年現在で、生産者の4分の3以上が何らかの認証を取得。2030年には100パーセントを、目指すとされています。
でも、オーガニック栽培はさほど普及しておらず、10パーセントを超える程度。北緯約45度。南からメキシコ湾海流が流れる温和な海洋性気候。年間降水量も1000ミリ程度あります。オーガニック栽培は簡単ではないのです。コミューナル・アペラシオンのオーガニック比率で、サン・テステフはマルゴーには及びません。
ラフォン・ロシェでは、オーガニック認証取得を諦めました。
ベと病対策に、硫酸銅と生石灰を混合したボルドー液を、オーガニック栽培では散布します。植栽密度はヘクタール辺り9000本ですから、かび病対策も大変。
重金属である銅を使い続けることが、果たして持続可能な農業なのか?そうした疑問が、オーガニック認証を取得している生産者からも聞こえます。土壌への残留や頻繁な散布。トラクターによる温室効果ガスの排出も含めて、ラフォン・ロシェが不安に思うのは自然なことです。
6. お値段以上の5級~シャトー・コス・ラボリ

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サン・テステフのワインで高価なワイン。やはりトップは、コス・デストゥネル。後を追いかけるのは、モンローズで、カロン・セギュールが少し間を開けて控えているといった所。格付け通りですが、その後には、ラフォン・ロシェ、コス・ラボリが順当に並ぶという訳ではありません。
意外にも、協同組合のマルキ・ド・サン・テステフ。コス・デストゥネルのセカンドワインのレ・パゴド・ド・コスは頷けますが、無冠ながら評論家の評価が高いフェラン・セギュールも含めた混戦の様相を呈しています。
ただ、格付けシャトーがひしめき合うポイヤックと比べれば、全般的にサン・テステフはお買い得。格付け5級コス・ラボリも、この円安の時代に1万円以下で購入できます。
コス・ラボリは、コス・デストゥネルに近い畑の砂利質土壌でカベルネ・ソーヴィニョンを栽培。2023年には、コス・デストゥネルに買収されました。
地理的にすぐ隣のシャトーを買収した訳で、ごく自然な流れ。と思われるでしょうが、そもそも、コス・デストゥネルは、1840年代にコス・ラボリを一度、買収していました。それを1850年代初頭に売却してしまった経緯。
2世紀の時を超えて改めて、傘下に取り込んだという歴史的背景があります。
金回りの良いコス・デストゥネルの傘下に入り、今後、投資も活発に行われることでしょう。このシャトーは、フレンチ・オークとアメリカン・オークを併用する所もユニークな点です。
7. サン・テステフのクリュ・ブルジョワとその他の注目シャトー
クリュ・ブルジョワは、グラン・クリュ格付けシャトーに続く品質とされています。2020年に3段階の格付け制度に改定。今は、サン・テステフでは、9つのシャトーがこの等級を得ています。2025年の見直し時に、厳しい基準が適用。クリュ・ブルジョワの総数はだいぶ減っています。
2020年にはメドックで、250あったクリュ・ブルジョワ。2025年には170に大幅に減少したのです。
官能評価のブラインド・テイスティングは、5年分のヴィンテージを評価。以前、クリュ・ブルジョワに認定済みの生産者も、2025年から例外なく、ブラインド・テイスティングの対象になりました。
クリュ・ブルジョワの中の上級格付けとして、設けられているクリュ・ブルジョワ・エクセプショネル、クリュ・ブルジョワ・シュペリュールの資格取得は、栽培や販売、ブランド、環境への配慮にも踏み込んだ評価により決められます。
AOCのような、細かいワイン造りの規定はないものの、例えば環境条件で言えば、HVE(環境価値重視)認証の取得も必要。
HVEは、フランス農業・食糧省による農業環境の認証。オーガニックの一歩手前と言って良いでしょう。殺菌や、殺虫剤の散布はむやみにはできません。
2025年のクリュ・ブルジョワ・エクセプショネル。サン・テステフからは、ル・クロックとラフィット・カルカッセが選ばれています。ル・クロックは、サン・ジュリアンの格付け2級レオヴィル・ポワフェレを所有するキュヴリエ家の所有。
一方、リリアン・ラドゥイは、2020年の格付けでは、クリュ・ブルジョワ・エクセプショネル。でも、2025年は辞退しました。苦労して認定を受けた格付けが、市場評価に役立たなかったというのです。それよりも、評論家の評価やメディアへの露出の方が、効果があるとの言。
5年毎の格付け見直しやブラインド・テイスティングでの官能評価は確かに公平です。でも、格付けが目まぐるしく変わると、消費者にブランドイメージが根付き難い可能性はあります。
もっと言えば、リリアン・ラドゥイはラフォン・ロシェと同じオーナーの、ジャッキー・ロランゼッティ傘下。クリュ・ブルジョワの威光がなくとも、マーケティングで良い手が打てることでしょう。
伝統的な格付けの意義を維持する為に、今後どうしたら良いのでしょうか。あるいは、ただ時代遅れになって行ってしまうのでしょうか?
シャトー・トゥール・サン・フォールはクリュ・ブルジョワ。サン・テステフでは、中国(香港)企業が2016年に、2013年のシャトー・ヴュー・クートランに続き買収。買収当時は、ヘクタール辺り、35万ユーロ程度がサン・テステフのブドウ畑の平均相場だったと言われています。
そして、格付けはなくとも素晴らしいシャトーも。小規模の家族経営ワイナリーが多いのがサン・テステフの特徴。
フェラン・セギュールは、評価が高くお買い得。特に右岸で引っ張りだこの、ミシェル・ローランがコンサルタントを務めています。
小規模ワイナリーと言っても、シャトー・ベルナール・マグレはちょっと違います。ペサック・レオニャンの名門パプ・クレマンも所有する大富豪のベルナール・マグレが設立。メルロ―比率も高く、コスパも良く、批評家も高い評価。やはり、金銭的に余裕がある所有者に恵まれることは大切です。
8. サン・テステフのまとめ
今回は、サン・テステフの土壌やブドウ品種、そして格付けシャトーに焦点を当てて、深堀しました。同じサン・テステフにありながら異なる土壌に立地するシャトーの品種や台木選択の違い。その一方で、醸造上は多くの類似点が。潤沢な資本力を背景に、進んだ設備導入を行っている状況が浮かびあがってきます。
そして、温暖化の影響が深刻化する中で、今後解決すべきアペラシオンやクリュ・ブルジョワと言った格付けの課題にも触れてみました。
小売店に行けば、ボルドーのワインは棚に数多く並んでいます。次回は是非、サン・テステフを選んでみませんか!






