【徹底解説】カリニャン ~ 古木の産地に見いだす質実剛健の魅力

スペインではカリニェナとも呼ばれるこの黒ブドウ品種。過去、メルロが最大品種となるまでは、フランス最大の栽培面積を誇っていました。スペインからフランス、そしてイタリア、カリフォルニア、チリなどに拡大。ブレンド用が中心ですが、特筆すべき単一品種のワインも存在します。そして、古木のワインが有名。今回は、普段、あまり日の当たることがないこの品種に注目。その歴史も紐解いていきます。

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【目次】
1. 重要な収量制限:畑でのカリニャンの育て方
2. 柔らかく造りたい:カリニャンの醸し方
3. 光と影のフランスでの生産の歴史
4. カリニャンの生まれ故郷スペインの注目産地
5. イタリア、カリフォルニアそしてチリへ広がる古木の財産
6. カリニャンのまとめ


カリニャンの原産地はスペインのアラゴン地方と考えられています。地中海沿岸、特にスペイン北東部およびフランスのラングドック・ルーションで多く見られます。通称GSMと呼ばれるグルナッシュ(G)、シラー(S)、ムールヴェードル(M)といった地中海品種とブレンドするのが一般的。品質の高いものは、黒系果実やリコリス、ハーブのような複雑な味わいを持ちます。果実味を引き締める酸とタンニン。

最大産地なのにフランスでは、単一品種のカリニャンは、IGP(地理的保護表示)やヴァン・ド・フランスとしての販売と、なんとも日陰の身。一方、スペインでは、リオハと並んで最高の産地としてDOQのアペラシオンを与えられているプリオラートが銘醸地。ここでは、ガルナッチャと共に推奨品種とされています。

1. 重要な収量制限:畑でのカリニャンの育て方

果実の大きさは中程度。厚く濃い青黒色の果皮。そして、芽吹きは遅く、成熟も遅い品種。長く暑い夏が必要です。そのため、温暖な地域で栽培されています。ラングドック・ルーションでは、酸とのバランスを取る為、比較的早めの収穫が一般的。一方、スペインのカタルーニャではタンニンやアントシアニンなどのフェノリックスの成熟を待って、10月以降まで収穫を待つことも。

うどんこ病やべと病は苦手。さらに、果房が枝に強く付着し、枝も硬いため、機械収穫にも不向きです。株仕立てで栽培されているブドウ樹が多く見られます。

スペイン、アラゴン。株仕立てのカリニャン畑

スペイン、アラゴン。株仕立てのカリニャン畑

そして、収量が高くなりがちな品種。1ヘクタールあたり200ヘクトリットルに達する場合も。ブルゴーニュのピノ・ノワールのグラン・クリュでは、1ヘクタール当たり、だいたい35ヘクトリットル。ですから、どれだけ薄いワインになるのか想像してしまいます。一方、最も注目されているのは株仕立ての古木。樹齢75年から100年の古木は、ヘクタール当たり30ヘクトリットルどころか数ヘクトリットルの収量の場合も。ワインは非常に凝縮された味わいとなります。

養分の点では、カリウム欠乏を起こしやすい傾向があります。カリニャンは、リンゴ酸含量が高いとされ、その中和に関連するカリウムの欠乏リスクが高いというわけです。

一方、灰色カビ病には比較的強く、フォモプシス病(枝枯病)には耐性があるとされています。フォモプシス病は、ベト病やうどんこ病などと同じくカビ病の一種。雨が多い春先に発生します。若い枝や葉に感染。エスカやユータイパのような、幹の病気にもなりかねないので、油断できません。

白やグリ色の変異種もありますが、赤ワイン用の黒ブドウ品種が基本。両親が誰なのかは、判然とせず非常に古い品種と考えられています。一方、カベルネ・ソーヴィニョンとの人工交配で、ルビー・カベルネという黒ブドウを生み出しました。

2. 柔らかく造りたい:カリニャンの醸し方

カリニャンは高い酸度と非常に引き締まったタンニンを持つことで有名。濃い赤ワインながら、総酸度は6g/Lを超え、pH3.6を切るものが簡単に見つかります。この特徴で、単一品種ワインとして造ると強すぎる所があり、ブレンドの補完品種として重宝。タンニン、酸、色素が不足しがちなグルナッシュの理想的なブレンドパートナーになります。

そして、醸造方法ではタンニンの抽出を抑える、マセラシオン・カルボニックが用いられることがあります。手摘みしたブドウを破砕せず、二酸化炭素を充填。ドライアイスを投入した上で、タンクを密閉する手順です。嫌気的な環境下で、酵母が介在しない細胞内発酵。ボジョレー・ヌーヴォーでおなじみの手法です。

マセラシオン・カルボニック

マセラシオン・カルボニック

細胞内の糖やリンゴ酸が果実自身の酵素で代謝されて、2パーセント程度までアルコール濃度が上がります。やがて果皮が破れ、アルコール発酵が進行。その後早々に、圧搾をすれば、それ以上タンニンを抽出することはなくなるという寸法です。

このプロセスによって酸が和らぎ、タンニンも滑らかに。花や果実の香りを強調する独特のアロマが生まれます。桂皮酸エチルという化合物が、マセラシオン・カルボニックの特徴香の一つとして知られています。

セミカルボニック発酵では、発酵槽をあらかじめ二酸化炭素で満たすことはしません。タンク下部の果実が自然に潰れて、その果汁の発酵で生じる二酸化炭素で嫌気的環境を形成。細胞内発酵が進行した後、比較的早い段階で圧搾し、果汁を取り出してアルコール発酵を完了します。

ただし、ピノ・ノワールなどの全房発酵では、果梗を含んで当初は破砕せずにアルコール発酵。ですから、セミカルボニックと似たメカニズムを持つ場合があります。

カルボニックやセミカルボニックの手法を用いて生産するか、あるいはカルボニックを使って造ったワインと通常のアルコール発酵を経たワインをブレンドする場合も。

また、この品種の醸造では、シラーなどと同様に、生産者は還元臭を気にします。ラングドック・ルーションでは、ピジャージュを。スペインのカタルーニャでは、ルモンタージュを採用することが多いようです。

3. 光と影のフランスでの生産の歴史

今日のカリニャンの最大栽培面積を有するのはフランス。3万ヘクタールを超え、8割近くがラングドック・ルーションで栽培されています。でも、1950年代、世界最大のワイン輸出国はアルジェリアでした。

19世紀後半、フランスがフィロキセラの被害を受けた際、多くのフランスのワイン生産者がアルジェリアに移住。そこでカリニャンを栽培してフランスに輸出しました。

主にカリニャン品種で造られていたアルジェリアワイン。当初はフランスで歓迎されました。しかし、フランス本国のブドウ畑がフィロキセラから回復すると、安価なアルジェリアワインの大量流入に対しての不満が爆発。

1930年代からフランス政府は輸入制限を設けます。1935年頃には、アルジェリアのワイン植栽面積は、約40万ヘクタールに到達。そうした環境の中、フランスは、自国ワインを守り生産・品質・原産地表示等を規制する、アペラシオンの法律(AOC)を制定しました。

1962年にアルジェリアが独立を果たすと、フランス系住民が祖国へ帰国。フランス国内での植栽が一気に増加します。ラングドックは一面のカリニャン畑へと変貌。1960年代末から70年代に掛けてのピーク時には、21万ヘクタールという広大な面積を占めました。

現在のカリフォルニア全体での総栽培面積が、おおよそ24万ヘクタール。ですから、如何にカリニャンが重宝されていたかという事がわかります。

しかし、その後この地域はヨーロッパのワイン湖と呼ばれる過剰生産に。そして、EUの補助金制度により古いブドウ樹の伐採が促進。一方、シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、さらにはカベルネやメルロなどが導入されました。若木のカリニャンを植える生産者はいなくなりました。1990年代には、フランス全体のカリニャン栽培面積はほぼ半減。栽培面積トップをメルロに譲り、現在ではカベルネ・フランと同じフランス第5位の栽培面積となりました。

現在でもフランス産カリニャンはラングドック・ルーション地方に集中。多くはヴァン・ド・フランスなどのシンプルなワイン向けに造られています。

一方で、今日までに残るカリニャンに古木が多い事もあり、痩せた土壌でしっかりと熟す高品質なワインになるものも。収量が制限され、果実味豊かで、強いタンニンや酸を持った長期熟成可能なワイン。

ドメーヌ・ドーピヤックはラングドックで有力なカリニャンの生産者。南向き斜面のテラスは石灰・粘土などを含む土壌。株仕立で、強い日差しを和らげています。オーガニックおよびバイオダイナミック農法を実践。エコサートとデメターの認証を取得しています。ワインは、1万円以下のお手頃価格。樽は新樽を嫌い、フードルの古樽を使用します。

カリニャンは新樽に余り合わないという説があります。新樽由来のタンニンが、もともと強いカリニャンのタンニンを倍増。渋さが増して、果実の個性が覆い隠されるリスクがあります。もちろん、上手く新樽を使って、酸素との接触を通してカリニャンの硬さを和らげようという生産者も。それでも、新樽比率は、10~30パーセント程度が普通です。

4. カリニャンの生まれ故郷スペインの注目産地

アラゴン州サラゴサ

アラゴン州サラゴサ

スペインは、フランスに次ぐカリニャン栽培国で、この品種の生誕地。スペインでのこのブドウの公式登録名はマスエロです。

生まれ故郷とされるのはアラゴン地方。ブドウのシノニムになっているカリニェナの町。ただ、この町周辺が生誕地という証拠までは有りません。それでも、スペインでは、一般的にはカリニェナの名前の方が知られているかも。

現在のスペインの有名産地は、主にカタルーニャ州で、プリオラートが銘醸地。多くの場合は、ガルナッチャとブレンドされます。

クロス・モガドールは、プリオラートを代表する生産者の一つ。現代プリオラートの父とも称されるルネ・バルビエが醸造を総括しています。この産地特有の赤黒い粘板岩、雲母などから成るリコレーリャ土壌の、急斜面で栽培。古木が多く、樹齢80年の畑もあります。きわめて低い収量から造られる凝縮したワイン。この生産者の造るキュヴェのマニェテスの主要品種は、カリニャンです。

リオハではマスエロの名で呼ばれます。1562年に遡り、すでにリオハ州ナヘラで栽培。でも、主要品種として扱う生産者はごく少数。テンプラニーリョのサポートで5パーセントから20パーセント程度の補助品種としてブレンド。タンニンと酸を補強し、長期熟成に寄与します。このように、リオハDOCaでは使用が認可されていますが、近年はブレンド比率が減少気味。

カリニャン単一品種ワインの生産は限られますが、注目は伝統的な生産者のマルケス・デ・ムリエタ。350メートルと、標高の高い自社畑から、珍しいマスエロ単一品種のロゼ、プリマール・ローズを造っています。

とはいえ、スペイン国内でのカリニェナ評価はそれほど高くなく、陰の存在。ガルナッチャや、さらに人気の高いテンプラニーリョの補助品種的な位置づけには変わりありません。

5. イタリア、カリフォルニアそしてチリへ広がる古木の財産

イタリア

ローマ帝国の支配を受けた後、中世にアラゴン王国(後のスペイン王国)の統治下に長く置かれたサルデーニャ。栽培されるブドウにも、その名残が見られます。最大品種は、カンノナウとシノニムで呼ばれるスペイン生まれのガルナッチャ。

そして、ここではカリニャーノと呼ばれるカリニャンもこの島の10パーセント弱の栽培面積を有します。現地では、「スペインのブドウ」とも呼ばれていたそうです。1,500ヘクタール強のイタリアの大半のカリニャンが、ここサルデーニャ島で栽培されています。

温暖で乾燥した地中海性気候のサルデーニャ島。その南西部が主要産地。現在でも、砂質土壌に自根の古木が多く残ります。

余談ですが、この産地のボヴァーレ・グランデと呼ばれてきた品種は、DNA分析の結果、カリニャンと同じ品種であることが判明しています。

サルディーニャのカリニャン畑

カリフォルニア

アメリカではカリフォルニアのセントラル・ヴァレー(インランド・ヴァレーズ)などで、カリニャンは栽培されています。そして、しばしば、ジンファンデルやプティ・シラーなどと共に、古木が混植された畑に見つける事ができます。

過去、ヨーロッパの移民達により植栽。収量が多く重宝されました。酸やタンニンの補強に使われ、いわゆるジャグワインと呼ばれる大量消費ワインにブレンド。

そんなカリニャンには、昨今見直しの機運が。豊かなタンニン、酸、そして濃い色調のカリニャン。果実味豊富で、酸やタンニンが少し控えめなジンファンデルの良い補助品種になります。

この産地の優れた生産者と言えば、リッジ・ヴィンヤーズ。ガイザーヴィルでは、ジンファンデルに次いでカリニャンが多く植えられているとも。1940年代〜50年代はもとより、1890年代植樹の古木カリニャンを自根で無灌漑栽培。単一品種のカリニャンのワインも造っています。

チリ

カリニャンは、現在の銘醸地マウレ・ヴァレーで1940年代から栽培が進みました。当時、植えられた古木から造られるカリニャンが注目を集めています。農業省肝いりで、広く植樹するように指示が出されたと言います。カリニャンが持つ濃い色合いと酸味。色合いや味わいが控えめな、パイスなどの品種とのブレンドに役立つと考えたのです。

そして20世紀末、ミゲル・トーレスが、この品種のテコ入れに。花崗岩土壌の、乾燥した傾斜地でカリニャンを栽培。地元の小規模ワイナリーや生産者と協力し、品質を追求しました。

古木カリニャンの復興を期して、「カリニャンのブドウ栽培者たち」という意味のヴィニョ(VIGNO)という、組織も立ち上げました。一定面積以上の30年以上の古木のカリニャンを無灌漑栽培するのが条件。

ヴィニョ創設メンバーの1社であるギルモア。無灌漑農法の50年の古木から、単一品種のカリニャンを造ります。丘陵の傾斜地で、海岸山脈に近い冷涼な立地。熟成はフレンチオークの古樽。過剰抽出はしません。

6. カリニャンのまとめ

なかなか飲む機会がない、カリニャン。単一品種のワインともなれば、相当なマニアックなファンか、ブラインドの選手でもなければ飲む事はないかも知れません。でも、実は知らず知らずのうちに、地中海地域のワインのブレンド品種として一度は口にしている可能性はあります。

一時期は、フランスの最大品種で世界にも広がった歴史。抜根が進む中、取り残されたブドウ樹が、今ではお宝となって凝縮感溢れるワインを生み出す古木。マセラシオン・カルボニックと言った醸造技術も使いながら、飲みやすいワインも出ています。カベルネ・ソーヴィニョンやサンジョヴェーゼなどの主流の赤ワインを飲み飽きた時には、ぜひ試してみたいワインです。

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