第二回は、実際にテイスティングをする際の準備についてです。どんなに優れた嗅覚や味覚を持っていても、適した環境で行なっていなければ正確に分析することが困難になりますので、大切なことです。ぜひご覧くださいませ。
文/富田 葉子
【目次】
①分析しやすい環境
②肉体的な健康
③精神的な健康
④まとめ
①分析しやすい環境

日本ソムリエ協会教本によりますと、以下が望ましいと言われています。
- 室温:18〜22℃
- 湿度:60〜70%
- グラス:ISOテイスティンググラス
- 品温:赤ワインは16〜18℃、白・ロゼ・発泡性ワインは10〜12℃
- 注ぐ量:グラスの1/3〜1/4
- その他:静寂、無臭、換気、照明・明るい壁の色・テーブル、白のテーブルクロスかマット
室温や湿度:これは、暑すぎず寒すぎず、私たちも過ごしやすい環境ですよね。
ISOテイスティンググラス:国際標準化機構のものです。ワインはグラスによって香りや味わいが大きく異なるため、グラスの違いで変わってしまわないよう、条件をそろえるためにワインテイスティングにおいて一般的に使われています。お持ちでない方は、そんなに高価なモノでもありませんし、アカデミー・デュ・ヴァンでも購入することができますので、ぜひ聞いてみてくださいね。ひとまず6脚セットを持っていると、これから増えていくであろうオンライン授業などでも、重宝するでしょう。あと、香りが取りやすいグラスですので、ワインだけでなく香りのよいお茶やビールを飲んでも、わりと美味しいです。笑
ちなみに「百円ショップのグラスなどはダメですか?」というご質問をいただくことがあります。結論、どうしても他になければ仕方がないですが、ISOテイスティンググラスや、アカデミー・デュ・ヴァンの多くの講座で使われているリーデルさんの高品質なワイングラス等と比べると、香りが取りにくいことが多いのであまりおすすめはしません。
高品質なテイスティンググラスやワイン専用のグラスは、一般的に安価なソーダガラス等ではなく、クリスタルガラスでできています。クリスタルガラスって、実は顕微鏡で見るとものすごく表面に凹凸があるのですよね。無数の凹凸により表面積が広いため、グラスの内壁に液体を行き渡らせると香りの分子が揮発しやすく、さらに大きなボウル部分で上部がすぼまるチューリップ型になっているのため、たくさん揮発した香りがグラス内に溜まって、とても香りが取りやすい構造です。加えて、酔って洗うと割れやすいのが悩みの種ですが、薄くできていて、温度が上がりにくいのと、口当たりが繊細で美味しく感じますよね。
安価なグラスは、クリスタルガラスでなかったり、上部のすぼまりが弱かったり、比べると分厚かったりすることが多くあります。
品温:
ワインを平等に分析をするための温度ですので、個々のワインに合わせた最も美味しい温度とは少々異なる場合もあるかもしれません。例えば、キーンと冷やして美味しい発泡性ワインやさっぱり爽やかな白ワインなどは、一般に冷蔵庫から出したての6〜8℃程度がちょうど良いと感じる方が多く、10〜12℃では少々高く感じそうですよね。
要注意なのは、赤ワインの16〜18℃でしょうか。「赤ワインは常温で」と言う誤解が、特に昔の日本では広まっていました。ご存知の通り日本では、季節にもよりますが常温では20度以上のことが多く、真夏などは30℃を超えますので、常温ではちょっと高すぎますよね。なぜ日本で赤ワインは常温という誤解が広まったかと言うと、この16〜18℃と言う温度帯は、フランス語でChambré、英語でRoom Temperatureと呼ばれ、日本語に訳すと「室温にした」の意味だからです。日本の常温ではなくて、フランスやイギリスでの、セントラルヒーティングのない時代の石造りの大きな家の涼しい室温ということなんですね。
注ぐ量:
「こぼれ〇〇」のような形で、まるで日本酒のように受け皿に溢れるまでグラスに並々注いでくださるお店もありますよね。あれはあれで楽しいのですが、分析的なテイスティングをする際は、グラスいっぱいに注いでしまうと香りが取りづらくなりますし、温度が上がりやすくなります。グラスの項で前述の通り、揮発した香りがグラス内に溜まることで香りが取りやすくなりますので、香りの溜まるスペースが十分にあった方が良いのです。ケチでちょっとしか注がないわけではないんですよ。笑
ちなみにアカデミー・デュ・ヴァンの受験関係の講座で使用されているISOテイスティンググラスは、「ACADEMIE DU VIN」のロゴ上まで注いでちょうど国際規格の50ccとなっています。受験関係以外の講座で使用されているリーデルグラスは、「ACADEMIE DU VIN」のロゴ下で50ccです。
注ぐ量の違いによっても、色調や濃淡の見え方等が少々異なってきますので、「ちょっと多く注いじゃえ」などとアバウトにせず、均一に基準の量を注ぎましょう。(くどいけど、規定量を守って、線以上注がないで!というのもケチだからではないんです。笑)
その他:
繊細な色の違いが分かりやすいように、明るい環境で白いものの上で行なうとか、匂いのない環境で行なうとか、これは次回のテイスティングの流れでも触れていきます。