連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.94 2019_03_29

~フランスのワイン~

RVF誌の正式名称は、Revue du vin de France文字通り「フランスのワインの雑誌」です。フランスは固有名詞として限定した国名を示していますが、ワインの方は一般名詞で、フランスで製造された何らか(何でもよい、任意の)ワインのことですね。このクラスの日常ワインでは、スペインやニューワールドなどに遅れをとり、2005年には世界消費の19%をフランスが占めていたのが、2014年には14%に落ち込んでいます。先進国で飲酒が減少、RVF誌によるとフランスもまたしかりです。2016年のフランスのアルコール消費量は成人一人あたり51.2リットル。2000年には71.5リットルなので、28.4%減となります。ヨーロッパ全体もそうです。逆にアメリカはなぜか21.2から32.6リットルへ増加です。ただ、摂取量は減ってもいいワインを飲む傾向があり、フランスではここ10年では24ユーロも増加しています。

さて、がぶ飲み?のvin de Franceというこの表記がかつて固有名詞のごとく使われたことがあります。これまでにも何回か引き合いに出したフランスの歴史・地理学者ロジェ・ディオン氏(Roger Dion,1896-1981)に『フランスワイン文化史全書』(国書刊行会)という本があります。原題はHistoire de la vigne et du vin en France : des origines au XIXe siecle, (初版が1959年、再版が 1991年と2010年に出ています).―直訳すると、フランスにおける葡萄畑とワインの歴史:起源から19世紀まで―となります。題名ではフランスのワインをdu vin en Franceと記しています。vin de Franceではありません。前者は英語のinのような語、後者のdeは英語のofにほぼ当たります。問題は後者です。ロジェ・ディオンによるとこうです―フランス北部の産地において、地質的に麦の栽培に適していないところが、ブドウの栽培地になった。19世紀まで、イル・ド・フランス地方最北のワイン、つまり「フランスのワイン」が作られていた。16世紀末までは、今日「シャンパーニュのワイン」と呼ばれるランスやエペルネのワインも、これらのワインに含まれるのが常だったし、オルレアンなどでつくられるワインも、含まれていました。日本語訳されているもう一つの著書『ワインと風土:歴史地理学的考察』(人文書院)も合わせて引用して見ると、ジョン欠地王が1192年に出したイングランドで売られるワインの価格を定めた王令は、最初にポワトゥーのワインを、ついでアンジュのワインを、それからフランスのワインを挙げている。イギリス領になって50年たっているが、ボルドーワインの名は見られない、と。

また上に記したと同じように、こうも言っています―この時代パリの周辺では高品質のワイン(vin de Franceのことです)が作られており、偉大なワインとして、現在はぶどう畑のないパリ北東のアルジャントゥーユのワインと、同列のワインとして紹介されていた。13世紀に詩人たちが称えたアルジャントゥーユ、オルレアン、ラ・ロシェルといったワインは、今日では消え去っている、と。

しかしこれはあくまで過去のお話。現在vin de Franceのクラスは2009年以来、かつてのテーブル・ワインvin de tableの位置にあり、ヴァン・ド・ペイの改称IGP(地理的表示保護)の下位にあります。  ここで1970年代後半から80年代のイタリアを思い出してみましょう。そう、スーパー・トスカーナ。サッシカイアもオルネライアもティニャネロも、テーブル・ワイン(vino da tavola)でした。そのフランスでの再来、というわけではありませんが、フランスでもvin de France(VDF)に新たな可能性を追求する動きがあり、今月のRVF誌ではその特集です。そういえば、アンジュ地方で自然派ワインをつくるオリヴィエ・クザン(Olivier Cousin)はINAOのAOC制度に反対して、vin de Franceのカテゴリーで自らのワインをつくり、それをAppellation Olivier Cousinと皮肉って表記し訴えられたことがありました。

それはともかくRVF誌13人のメンバーが選んだ、ご推薦のvins de Franceの27銘柄から幾つかを。
まずは、AOPでいくとFrontonつまり南西地区(内部)のChateau Colombierのワイン。ただAOPとしては赤かロゼで、白はVDFかIGP。前者のうち、長く忘れられていた白のセパージュbouysselet blanc de Villaudricを使った Le Gran B 2016には、15点から16点が集まっています。(はっきりした点数ではなく13人の点数付けがドットしてあります)セパージュおよび作り手の意識としてVDFといえどもテロワールを反映していると言えます。なにしろ、この特集の題目が、「これ以下は何もない<ヴァン・ド・フランス>は、テロワールを反映するか」というものですので、明確な答えとなっています。
次に紹介するロゼは、この点で微妙です。Chateau Les Trois Croix, Rose 2017 赤はフロンサックのAOPで日本でも手に入るようです。パトリック・レオンはかつてムートンやオーパス・ワンの醸造長をつとめ、サッシャ・リシーヌの相談役(あの超高い!ロゼGarrus)もしており、息子Betrandとフロンサックでワイン造りをはじめました。そのせいでしょうか、テロワールよりも技術を感じ、フロンサックというよりもプロヴァンスに近いスタイルだ、と。セパージュはメルロ単体で、12点から13点に集まっています。Garrusファンとしてはちょっと飲んでみたい。
地球温暖化はテロワールにも影響を及ぼします。アルザスは気候変動への対応策を探しています。そのなかでDomaine Mure,Syrah 2017。アルザスのシラーです。2010年頃からシラーが試験的に植えられて、観察が続けられています。
シラーとシャルドネという突飛な組み合わせもあります。アントル・ドゥ・メールのChateau Thieuley, Syrah Les Truffieres 2014です。この二つのセパージュを2006年から実験かたがた、趣味として植えているとのこと。ただ、さすがに二つのセパージュを合わせているわけではなく、シラー100%の赤とシャルドネ100%の白の二種類があり、ここでは赤が推薦されています。12~13点。
Chateau Vieux Taillefer, Blanc 2017 サンテミリオンのシャトーで、メルロ100%の赤も出しています。サンテミリオンは実は、19世紀フィロキセラ以前、白ワインの地でもありました。85年のヴィエイユ・ヴィーニュであるMerlot blanc(そんなセパージュがあるのですね)を主に使った白ワインで、長く忘れられていたため、2013年から、この白のサンテミリオンはVDFに分類されたとのことです。点数はばらつきがあり、10点あたりと14~16点あたりに集まっています。
最後は、歴史も加味したVDFと言うべきか、ローヌのセパージュで、パリでつくられたワインLes Vignerons Parisiens, Lutece blanc 2017。Luteceとはパリの古称で同名の高級ホテルもあります。ネットにここの情報が載っていました―パリジャンのマチュー氏が設立、ローヌを中心に60以上のドメーヌのコンサルを行う有機栽培専門家で、ローヌの敏腕コンサルタント、フィリップ・カンビ氏がコンサルタントを務めるローヌのドメーヌの元オーナー。契約農家と栽培、収穫に携わり、有機栽培、ビオディナミを実践したローヌのブドウを、パリで醸造、瓶詰めして生まれるのが、このヴィニュロン・パリジャン、と。
https://store.shopping.yahoo.co.jp/takamura/0400003224067.html#
買い付けてきた葡萄を、パリで醸造、瓶詰めしているようです。11点から14点にばらついています。

面白いワインが多いので、次回ももう少し紹介します。