連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.87 2018.09.21

~シャトーヌフ・ドュ・パープ2016~

今夏は猛暑、台風に悩まされましたが、ヨーロッパでも猛暑でスペインでは47度、スエーデンの氷河が溶け出し、ドイツでは干ばつで、農産物の収穫量が20%減とか。そうしたなか、イタリアでは8月10日から葡萄の収穫が始まりました。はやいように思えますが、春と夏の雨に見舞われて不作の昨年はもう一週早かったとか。2017年は、極端に乾燥し、4000万ヘクトリットルでした。フランスは3690万ヘクトリットル、スペインは3680万ヘクトリットルでしたの。しばらくイタリアは、ヨーロッパ一の収穫量を誇っています。今年は4700万ヘクトリットルを予想。一方、フランスでも27%増(微妙な数字!)の4600から4800万ヘクトリットルを予想しています。新たな数字では2017年比21-25%増、4450万ヘクトリットルから4610万ヘクトリットル増、と下方修正しています。ボルドー、ローヌ。ラングドックが深刻なベト病に見舞われていますので安心はできません。5月と6月に珍しくも降った大雨と湿度のためにベト病が進行し、おまけにうどんこ病も発生し、その処置に追われています。ボルドーでは雹に見舞われた8000ヘクタールでベト病が蔓延し、最終的には2017年比35%前後の増で、500-570万ヘクトリットル。シャンパーニュもベト病に見舞われましたが、夏の猛暑がここでは幸いし、前年比56%増、過去五年比39%増で、350万ヘクトリットルになるもようです。これでストックワインも少しばかり増えるでしょうか。シャンパーニュも含め、ブルゴーニュ、ボージョレ、アルザスでは猛暑がベト病の進行を抑えています。

天候不順はビオ栽培を続ける農家にはきびしいものです。フランスではビオ栽培は何%を占めると思いますか。農業省管轄下のAgence Bioの統計によると、ここ5年ほど後退していたのですが、2017年に飛躍的に伸びました。2016年には6万1048ヘクタールだったのが、一年で1万7617ヘクタールも増加し(ちなみに2016年は1万2016ヘクタール増加)、7万8665ヘクタールに。葡萄畑の10%を越えることになりました。この傾向は続くようで、12.5%の栽培家がビオ農法を採用することを決めています。そのうちに、ビオ栽培が標準となってくるかもしれません。他の野菜類もじわじわ増えていますし。

され、少しばかり気温も落ち着いてきたので、赤ワインも飲めるようになりました。そこで前回予告したシャトーヌフ・ドュ・パープの情報を。

シャトーヌフ・ドュ・パープにとって、2016年は優美でエレガント、伝説の年になるようです。RVF誌では「伝統的」キュベと「特別」キュベという分け方をして2016年シャトーヌフ・ドュ・パープを評価しています。伝統的キュベは、グルナシュ種と、それにサンソー種、シラー、ムーベルドを混合してつくられている、まさに「伝統的」なキュベです。特殊キュベの方は、各ドメーヌの特色がでているカテゴリーで、さらにヴィエイユ・ヴィーニュが主体、あるいはセパージュで、シラー主体、ムーベルド主体といった分類をしています。そのなかで基本となる考えは、「ブルゴーニュと異なり、シャトーヌフ・ドュ・パープでは、土地とセパージュから複雑さが生まれる」と、Clos des PapesのVincent Acrilは語っています。

テロワールに関しては4つのグループに分けられます。まず南地区。粘土質に欠け、水分保留が少ないという特徴をもっています。テラス上で、葡萄は深く根を張り、ミネラルに満ちている。肌理の細かさとタンニンの強さが見受けられます。次は西地区。白亜紀の石灰質土壌でタンニンの鋭さがあります。東地区の土壌の特徴は赤っぽい砂岩。シャトーヌフ・ドュ・パープではもっとも繊細なワインを産み出します。最後は丸い小石に覆われ、階段状になっている地区、赤い粘土層がミネラルと水分を保全しています。

RVF誌では、最初に挙げた「伝統」と「特殊」キュベに分けて評価していますので、それにしたがって紹介します。

まず伝統的キュベで18点以上は、Le Vieux Donjon、Clos du Mont-Olivet、Clos des Papes、Domeine Charvin(RVFのお薦め)、Domaine de Villeneuve、Les Cailloux、Vignobles Mayard。

特殊キュベでは、まずグルナシュ種オンリー。Roger Sabon, Le secret de Sabon気高さを感じるとありますが190ユーロとお高い。Domaine de la Jeunesse, Chaupin、 

次はヴィエイユ・ヴィーニュ。パープでは100年にならんとする樹もあり、だいたいはグルナシュ。Clos du Mont-Olivet, La Cuvee du Papet、Domaine de Marcoux, Vieilles Vignes(100%グルナシュ)、Les Cailloux,Cuvee Centenaire(85%グルナシュ)この3つは今回4つある19点のうちの3つのドメーヌ。18点以上は、Domaine Giraud, Les Galimardes(90%グルナシュ)、Domaine de la Janasse, Vieilles Vignes、Vignoble Mayard, Crau de ma Mere

次はいわゆるリュ=ディ由来の区画ごとのキュベ(キュベ・パルセラールcuvee parcellaire)。今回唯一の20点満点のドメーヌChateau Rayas、それに19点のM.Chapouter, Barbe Racが続きます。

シャトーヌフ・ドュ・パープではグルナシュに厚みと色を加えるのにシラーを使いますが、珍しくもシラー100%のものもあります。ただ、最高点は16点Clos Sait Michel, Grand Cru。

ムーベルド主体もしくは100%。ムーヴェルトは晴天が続いた年にははっきりしたタンニンの強さが出てきます。Domaine Bois de Boursan, Cuvee des Felix、Mas Saint-Louis, Grande Reserve。

次は珍しいヴァカレーズ100%。このセパージュのワインは定義するのが難しいと言うくらい貴重で、一つだけ16点で載っています。Domaine des Dines Roches, Forget me not。

13種混合タイプ。18点はありません。17点のDomaine Lou Frejau, XIII cepages そのままの名前です。

残念ながら赤ワインのみで白はありません。白のシャトーヌフ・ドュ・パープはカレー にあう、と大昔教えられたことがあります。フランス人は概して辛いものが苦手で、いまでこそタイ料理屋インド料理店がありますが、外国料理と言えば、アジアでは唯一といっていいくらい辛くない(植民地だったこともありますが)、ベトナム料理だけでした。フランスのカレーは今でも辛さが控えめで、けっこう薫り高く、エディアールやフォションで売っているカレー粉も結構いけます。それと合わせるなら白のシャトーヌフ・ドュ・パープはいいかと思います。

最後に古めのシャトーヌフ・ドュ・パープが挙がっていますので、それも。

18点でClos des Papes 2010 デキャンティングをするとメンソールのような香り、力強く食事によく合う。17点でMontage Vieille 2010とRoger Sabon, Prestige 2010、2007年のClos du Mont-Olivetは18,5点。同点で1998年の同じキュベも。私自身はあまり古いシャトーヌフ・ドュ・パープは飲んだことはないですが、アヴィニョンのレストランで勧められた古酒はとってもよかった。比較的お値段も手頃なものもあるので、是非お試しを。