連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.53 2015.11.15

ワインの季節

 ボジョレー解禁とオスピス・ド・ボーヌの祝祭、それにそもそも食欲の秋!というわけでワイン好きにはいい季節になりました。11月15日に行われるボーヌのワイン祭は、155回目で、Ludivine Griveauという38歳の女性が差配をつとめることになりました。女性がするのは、はじめてです。「ワインをつくることは、性とは関係がない」と言っておりますが、まあ、そのとおり。あるいはルロワやルフレーブをみると男性以上かも。スタール夫人という19世紀の作家は、フランス革命を賛美し、フランスにドイツ文化を紹介し、自身もロマン主義文学の先鋒となり、私生活では愛人をとっかえひっかえし、おまけにナポレオンと喧嘩をするほど肝っ玉が据わった女性でした。彼女の言葉に「天才と性は関係がない」というのがありますが、ワインもそうでしょうし、芸術も。社会制度が女性を締め出してきただけです。
 ボーヌに限らず、フランス各地でもワイン・サロンが10月末から11月初頭にかけて多く開かれています。「南ブルゴーニュの職人気質の葡萄栽培者」、「Château Larrivet Haut-Brionのエノフォリ」。エノフィル(Oenofile)ならぬ エノフォリ(Oenofolie)、ワイン愛好者のその上を行く、ワイン狂気者とでもいいましょうか。この会は第9回を迎えます。あるいは「ブリストルの書籍とワイン」とか、「ラブレズリー(Rablaiseries)」。これはフランスの作家ラブレー(François Rabelais,1494-1553、『ガルガンチュアとパンタグリュエル物語』で有名な作家で、美食家の代名詞にもなっています。)をもじったものでしょうか。「ラブレー主義者」とか? あるいは「ルーピアックとフォワグラ」とか。このなかに «Le Salon Européen du Saké et des boissons japonaises à Paris » があります。直訳すると「酒と日本の飲み物のパリでのヨーロッパ・サロン」です。もう終わってしまっていますが、2013年に開かれて、それが成功したので続いているようです。日本酒もかなりフランスで浸透してきたとはいえ、まだまだアジアの他の酒類と混同されがち、その種類や製造法、産地などを紹介するというものです。 L’Académie du Saké なるものがあって、創設者はSylvain Huetという人で、この人がこのサロンを取り仕切っているということです。
 調べてみると、面白い名前のワイン会がけっこうありますね。日本では無味乾燥な「ボルドー云々の会」というものしか、あまり眼にしませんが・・・。
 さて、こうした会では今年のワインを飲むわけにはいきません。それでは、今年の葡萄は、最終的にどのような見込みとなったのでしょうか。
 11月4日付けの発表では、2015年はヨーロッパ全体で葡萄は高水準と、ブリュッセルでの記者会見で発表されました。EUの有力な農業グループCopa-Cogecaの代表であるフランス南西地区のThierry Costeも、同様に高水準のミレジムと述べています。気候はとくに全ヨーロッパで葡萄栽培に適したものであった。7月の暑さもあり、成熟と新鮮さを備え、珍しく旧大陸の全畑で、温暖な気候であったことを強調しています。
 収穫量は、2014年が166.7Mhl(百万ヘクトリットル)の対し、171.2Nhlと増加。
 ちなみにフランスでは、10月はじめの予想とは異なり、収穫増になりました。これは主にコニャック用葡萄の収穫増によります。こちらも当初の見込みが46.5Mhlが、最終的に47.9Mhlになりました。ラングドック=ルーション、南西地区、ブルゴーニュ、ボジョレー、そして特に猛暑と乾燥の「素晴らしい夏」を迎えたシャブリでおなじみのヨンヌ県では収穫増でも収穫増。ボルドーは昨年に微増で。これには白ワイン用葡萄の収穫が雨のために、かなり遅れたことと関係があるようです。ロワールも予想よりは少なく、微増。今年はイタリアの収穫量が多く、予想の一割多い、48.9Mhlとなりました。(ただ、記事によって数字に差があり、フランスを47.7Mhl、イタリアを50.3Mhlとしているところもあります。)
 とはいうものに、ここ数年の嵐や雹などをはじめとする被害によって収穫が激減していましたので、2008~2009年あるいは2012年の水準に戻ったというところです。
 また暑さと乾燥のため、病気も少なかったのですが、スペインでは水不足になってしまい、5.3%も収穫が減ってしまいました。とはいえ、42Mhlを確保し、なによりもここ15年でもっともいい出来とのことです。スペインワインの2015年は、<買い>かもしれませんね。
 涼しくなれば、赤ワインだけでなく、甘口の白ワインにも食指が動く季節です。というわけで、今月のRVF誌のメイン特集は、最近はいまいち人気のないフランス甘口ワインです。
 フランス各地の甘口ワインを比較し、点数付けを行っています。そのなかで20点満点に輝いたのは、以下の4つです。
ALSACE   Weinbach (Reasling Quintessence de Grains nobles) 1991
SAUTERNES  d’Yquem 1997,   Coutet (Cuvée Madame) 1997
VALLÉE DE LOIRE  Clos Naudin (Vouvray La Goutte d’Or) 1990            「神の滴」ならぬ「金の滴」。上で挙げたフランス人作家のラブレーはロワールのシノンの生まれで、このドメーヌは、ラブレーのオマージュとしてVouvray moellueux Réserve をつくっています。1990年は18点。
 他の地区では、南西地区も甘口もしくはメロウ・ワインで有名ですが、RVF誌が注目しているドメーヌは以下のものです。
 Clos Jouliette (vin de France 2001, Jurançon 1971) 後者は飲んでみたいですが、手に入りそうもないですねえ。
 Robert Plageoles & Fils (vin de France Vind’Autant 2010) 1988年が最初のミレジム。アルコール度がなんと9.5%。
 評価を見ると、ソーテルヌやアルザスはいうまでもないですが、南西地区も、ロワールも総じて評価が高くなっています。
 ブルゴーニュとローヌに関しては、それぞれ一つずつドメーヌが挙がっています。
Domaine de la Bongran ( Mâcon Botrytis 2006, Macon-Clessé Cuvée Botrytis 1994 ) 後者はなんと120ユーロもします。マコンの貴腐ワインというのは貴重だからでしょうか。
Domaine Yves Cuilleron (Condrieu Ayguets) これも珍しいコンドリューの甘口ワイン。こちらは40ユーロ前後です。それなりのお値段です。
 若いワインもあり、また古くても値段が公表されていないものまでRVF誌では記載されていますが一番高いワインはディケムと思いきや、違いました。上で挙げたクーテで350ユーロでした。同年のディケムは309ユーロ。逆に一番安いワインは南西地区にあります。まあ、不人気のほどが伺えます。南西地区は不当評価されていますからね。
 Clos Benguères (Jurançon Le Chène Counché) 2007年は17点、2012年は16.5点でともに18ユーロ。南西地区でも有名な Les Jardin de Babyloneのジュランソンが110ユーロするのに比べてあまりの格差です。
 年末年始は、シャンパーニュだけでなく、南西地区のワインを飲みましょう!