連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.43 2014.11.14

・・から人肌・・・熱燗・・・まで

 和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともありましょうか。最近RVF誌のネットニュースでしばしば日本酒が取り上げられています。ワインと同じようなスタイルで試飲する模様やその味わいの説明、サービスの仕方を紹介する記事や映像が載っています。
和食はフランス語では、「日本のガストロノミー(la Gastronomie japonaise)」になります。『アカデミー・フランセーズ』の辞書では、客を歓待すること、またその中心になる「ごちそうをする」、「美食をする」ことに関わるすべてのことが、ガストロノミーということだそうです。そこには無形の文化も含まれることになりますから無形文化遺産ということなのでしょう。
 すると日本酒(le saké)も、そうした和食ガストロノミーの一要素をなすものと理解できます。文化遺産に登録しなければならないほど、ある意味で衰退している和食文化のなかでたしかに、日本酒もきちんと理解されているとはいいがたく、日本人がフランスのワイン情報誌を通じて知るというのはおかしな事態といえば、いえます。

 まず、器です。日本酒はワインと同じく複雑で、グラスはボルドーもしくはブランデー・タイプがいいと、いうことです。(ちょっと大きすぎないかなあ)それから、純米酒は「ぐい呑み (guinomi)」でもいいと。
色を見ましょう。白紙を下にして観察すると、透明だが熟成とともに色づくことに気づきます。濾過をしていない酒もあり、「もろみ」が残っていることも。また日本では、色を見るのに別な方法もあります。底に青い円が描いてある猪口やぐい呑みでも色がわかりやすい。(フランスで売っているのでしょうか。日本でもあまり試飲会以外はお目にかからないですね。杉の升はさすがに、言及していません。)
次に香です。果実、それとも香辛料、シリアルの香りがしますか。ワインと同じ方法で香りを試すのがよい方法です。口内での香りの持続を記述してみましょう。(ただ味わいそのものの詳しいは記述がありません。)

日本酒のサービスについては、ワインと異なって温度が重要になってきますが、サービス温度は5度から55度まで幅広い。ただ5度では調和がとれないことも。10度は調和よく、15では酸味がたつこともある、とか。(そうかなあ。)

そして、ポエジーのような言葉でそれぞれの温度が著されています、と。
「熱燗」と呼ばれるものは50度で本当に熱い。もう少し低いものは「上燗」。今なかなか上手にやる人がいなくなりましたが、上方落語に「上燗屋」というものがあります。屋台の親父と客がやりとりするシーンがあって、客「おっさん、この上燗ちゅうのはなんやあ。」親父「そら、熱なし、ぬるなし、ちょうどええ加減ですわ。」とかけあいます。
上燗よりも低いが暖かいのが「ぬる燗」(40度)。35度は「人肌」。30度は「日なた燗」(これは知りませんでした。)20度で「常温」。15度から5度までの冷たい酒はなんと言うでしょうか。普通は、なんとなく、冷酒という感じで注文してしまいますが、15度は「すず冷え」、10度が「花冷え」(天気で花冷えといいますが、そこからきたものでしょうか。花が最適に育つ温度でもあるのでしょうかね。知っている方がおられたら教えてください。)

さて、最も上と下の温度、つまり5度と55度はなんと言うでしょうか。

5度は「雪冷え」、55度は「とびきり燗」と言います。
いくつ知っていましたか。

 和食と日本酒の攻勢にあやかったわけではないでしょうが、このたび、シャンパーニュのドゥ・スーザ(Champagne De Sousa)が「うま味(cuvée umami)」という新しい商品を出しました。人に、これを教えたところ、「まさか、味の素入りじゃないよね?」と。うま味というとグルタミン酸をつい思い出してしまうところです。トマトにもありますが、ブドウにもあるのでしょうか。

 変わったワインと言えば、このたびスコットランドのワインができたそうです。エジンバラの北で、ローマ帝国ハドリアヌス帝(2世紀)以来、はじめてワインを製造。クリストファー・トロッター氏が2,4haに5000本の葡萄を植えて、畑自身はゴルフ場で有名なセント・アンドリュースに近いコント・ドゥ・フィフで、ハイランドにもかかわらず南向きでロワールに近い気候とか。今年は盛夏の太陽のおかげでよいものができたそうですが、温暖化が身をもって感じられますね。
 ただし、このワインは市場にはでないし、名前もまだないそうです。RVF誌が予想している名前は、Highlander DreamとSpirit of Braveheart。スコットランド独立派でも名高いショーン・コネリーは自分のカーヴにどうか? との質問に、イエスと。ジェームズ・ボンドは日本で熱燗を飲みましたが、うま味のシャンパーニュとスコットランド・ワインを飲むことはないでしょうねえ。