連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.42 2014.10.14

マコンから見るワイン

今月のRVF誌、恒例の冒頭インタビューは、マコンに「彗星のごとく現れた」ベルギー出身の醸造家ジャン=マリー・ギュファン氏(M. Jean-Marie Guffens)です。
実はRVF 誌583号 で行ったブルゴーニュ・シャルドネのブラインド試飲があり、各ドメーヌの2011年と2004年の同一銘柄をもって比較しました。そのなかで、コント・ラフォンの2011年のムルソー・プルミエ・クリュ、シャルムMeursault 1er cru Charmesだけが、わずかに上回っただけで、デュジャックやメオ=カミュゼなどをおさえて、Domaine Guffens-Heynenの マコンMâcon-Pierreclos Tri de Chavigne, 2011,2004 がトップになりました。ムルソーと間違えた人もおり、洗練されたテロワールを感じる味わいや、素晴らしい後味の持続感が評価されています。なによりも、コント・ラフォンやデュジャックよりも安い!35ユーロ。まあ、マコンとしてはかなり高いですが。ちなみにデュジャックはモレ=サン=ドゥニMorey-Saint-Denis 1er cru Les Mont Luisant です。

ギュッファン氏曰く、「私はひたすら土に、テロワールに関わるテロワリスト terroiristeではない。私にとって、土壌よりも人間の知性と労働が決定的である。」テロリストは御免ですが、テロワリストとは、彼が作ったのかどうか、知りませんが、造語ですね。テロワール至上主義への警告でしょうか。
葡萄栽培の歴史をみれば、地中海沿岸よりもむしろそれ以北の、栽培が困難な地と見られていた場所で高級ワインの葡萄を栽培してきたこと、つまり自然条件を上回る人間の文化=耕作cultureがきわめて重大な要因であるということは、ワインの歴史家ロジェ・ディオンが既に強調していることです。
「自然」とは、「文化」という考え方が生まれて初めて、意識されるものです。文化のないところに「自然」という概念はありません。延命治療を拒否する「自然死」は、医療技術文化の果てに出てきた考え方です。「自然派」も、ワインの栽培技術の果てにでてきました。

インタビューでは、ここ数年来、とくにブルゴーニュ白ワインを悩ませている、例の「早熟酸化(oxydation prématurée)」の要因にも触れています。もちろん、これっという決定的な要因があるわけではなく、複数の原因が混在しているわけですが、目立ったものを拾ってみると、クリアなワインをつくるために、葡萄に荷重をかけなさすぎ、硫化水素の使用を毛嫌いしすぎとか、機械詰みによる異物の混合などを指摘しています。
 さらにコルク栓の劣化が、20年前から言われている、と言っています。これは個人的経験としても実感します。トップクラス以外のワイン、とくに、一番飲んでいるからでしょうが、シャンパーニュのコルク栓は劣化しています。そこでヴェルジュVerget では2003年以来キャプスルも使用している、と。代用コルク、キャプスル・ワインは、たしかに見た目はいまいちですが、しようがないのかもしれません。さらに新樽の使用も要因と。ですから、新樽使用の比率を減らしているとか。
 そして何よりも、地球温暖化。ブルゴーニュでは十五年前からきわめて異なった天候である。祖父と同じように、父も息子もするというわけにはいかなくなっている。たしかに、ビオデュナミは、この現象を防ぐことはできる場合もあるが、天候も土壌も変化する。しかし彼らも認めている?ボルドー液の過度な使用はよくない上に、葡萄のことも知らない、一世紀前の人(私自身、この人の紹介をADVで行いました・・・ !?)の書物を信じて同じように行動するのが理解できない、となかなか手厳しい。
 INAOは、マコンの格付けを検討し、彼を招聘していますが、まったく否定的です。なかなかいいですね。

 この号も含め、RVF誌では、マコンやコート・シャロネーズでがんばる若い世代の特集もしばしば組まれています。余りに高くなりすぎ、日常の食生活から離れ、投機目的になりさがっている(ギュアン氏は「金庫テロワール」と皮肉っています)グラン・ヴァンへの異議申し立てでしょうか。

 さて、温暖化と言えば、なんと、ハイランド、つまりスコットランドでワインがつくられたそうです。
 エジンバラの北、ゴルフで有名なセント・アンドリュース近くのComte de Fifeというところが、天候がロワールに類似しているとか。ローマ帝国のハドリアヌス帝(2世紀)以来の植樹で、九月に収穫がされました。Christopher Trotter が2, 4haに5000本の葡萄を植えました。
 ワインは、市場には出ず名前はまだありませんが、Highlander DreamもしくはSpirit of Braveheartとか。
 スコットランド独立派のショーン・コネリーは、自分のカーヴにどうか?との質問に、Yes、と。
 イギリス南部では、いい品質のスパークリング・ワインができたり、スコットランドでワインができたり、温暖化で、イギリスが高級ワインの産出地になる日も近い?