連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.29 2013.08.27

天候不順の続くフランス (2)

 今年の日本の猛暑は記録的ですが、同時に各地で大雨や水害で大変ですね。フランスでも、前回コラムで報告しました7月末のブルゴーニュや各地を襲った雷雨にひきつづき、ボルドーでも今夏は雹(ひょう)をともなう雷雨で被害が出ました。(ちなみに,突然やってくるような激しい雷雨のことをフランス語ではorageオラージュといいますが、La Revue du vin de Franceの記事タイトルも 、そのまま » orage « です。にわか雨は »pluie d’orage « です。)ボルドーのプチ・アペラシオンが被害に遭いました。正確なアペラシオンでいうと、Bordeaux, Bordeaux supérieur, Entre-deux-Mers, Côtes de Castillonが被害地域にあたります。
 8月初頭にフランスを横断した雷雨は、アルザスのオー・ランHaut-Rhinの畑も襲いましたが、幸いにもこちらは被害を免れたようです。しかし、ボルドーの上記の地区では雹雨は、37,000ヘクタールにおよび、そのうちの7000ヘクタールでは、ところによって80~100%の損害になりました。
近郊のベルジュラックでも被害がでました。ブルゴーニュの時と同じように、与えられたダメージはおおきくて、ボルドーワイン・インタープロフェッショナル委員会長のベルナール・ファルジュ氏は、「中にはすべてを失った所有者もいる」と。6月の凍える寒さも手伝って、2013年の収穫は大幅減ということです。
 その数日後には、ボジョレーが。今年のボジョレー・ヌーヴォーは、ひょっとすると品薄になるかも知れません。こういう事態になると、盗難もおきそうです。収穫も9月末まで、延ばすところも出てきていますが、それも9月の天候次第。シャンパーニュも委員会によると、9月末が収穫になるらしいです。

 別の記事によると、ボルドーのブドウ畑の、10,000ヘクタールで(数字はけっこう変わっています)、さまざまな程度で被害が発生しており、農業会議所によると、ボルドーの何千ヘクタールもの畑が、100%、つまり完全に破壊されたということです。ジロンドの農業経営者連盟長パトリック・ヴァスール氏は、「10%や20%しか影響を受けていないところもあるが、後は全滅だ。」と強調しています。4000から5000ヘクタールが80%以上の被害を受け、それはボルドー全体の5%以上に当たる、ということです。影響は、ジロンド川からドルドーニュ川へ、30-40キロの長さ、幅10-15キロにわたる範囲で、2009年5月にも12,000ヘクタールにわたる被害をこうむったこともありましたが、今回はそれ以上になるとも見積もられています。
 被害にあった地域では、1ヘクタール当たり平均で、4000ユーロの損失です。日常ワインを生産し、せいぜい2ユーロほどの大衆ワインを生産している農家が、ほとんどなので、金銭的痛手は相当なものと思われます。今年から来年にかけてフランス全体で廃業に追い込まれそうな葡萄栽培=ワイン生産者が多数出そうで、悲しい限りです。
 RVFの記事は、以下のURLです。
http://www.larvf.com/,vin-revue-france-vins-orages,2001118,4358253.asp
 このページの写真で、雹の大きさがわかります。
http://www.larvf.com/,vin-revue-france-vins-orages-bordeaux,2001118,4358211.asp
また、ここを見ても記事と写真があります。手に雹をもって、全滅した400ヘクタールのブドウ畑を背景に、どうしようもない顔をしている栽培者アンリ・フェレHenri Féretさん(CHÂTEAU Féret-Lambert、ボルドー・スーペリウール)の写真です。ボルドーから40キロ、Gréziallcという地区です。今年だけでなく、来年以降も困難を強いられそうです。

 それに対して、イタリアでは、収穫が順調のようです。8月22日からイタリアでは収穫が始まり,昨年よりは少しおそいとはいえ、前年度比3%の生産増が見込まれています。
 最初の収穫がはじまったのがPavie地区のドメーヌCastello di Cigognola、ここではスプマンテも生産しています。このドメーヌでは2013年は,赤ワインよりもわずかに白ワインの生産が多くなる模様で、40%をD.O.C.に、30%をD.O.C.G.に、残りをテーブルワインにするつもりとのこと。2013年の収穫は、上がったとはいえ、自国の経済危機のため,自国消費は伸び悩み,半分は海外へ売られます。2012年には一人当たり消費量は40リットル以下だったようですが、ここ2年間の消費の低迷は22%減にもなり、19世紀以来のことだそうです。フランスは50リットル程度でしょうか。日本は、たしか2リットル前後です。(私は何人分をカヴァーしているのでしょうか・・)
そういえば、フランスでも、ワイン離れはかなりすすんでいて、ワインを飲まない人も40%近くいるとか。おまけにビールには160%もの税金はかけるわ、アルコール消費は落ち込むいっぽう。そんななか、とうとう、Rouge Sucetteというコーラ・ワインまで売り出しました。ボルドーのHausmann Familleの販売。赤ワインがベース(75%)で、残りの25%の成分が、砂糖や水、コーラフレイバー。Figaro紙では、果物入りロゼの次は、コーラ・ワインかと、嘆いています。アルコール度数は9%、と本物のワインとほぼ同じくらいで、3ユーロ、売れ行きは好調だとか。
 またスペインは猛暑で、イタリアと同様に、こちらも生産増が見込まれています。RVFの記事は、カナリヤ諸島での模様についてです。同じく経済危機の国で、カナリヤ島には、昨年以上の季節労働者が職をさがしてやってきています。ここでは600万トンの生産で、昨年を150万トンも上回るようです。
 
ところで、フランス語で、bête(ベット)は、もともと野獣の意味で、「美女と野獣」もLa Belle et La Bêteといいます。またbête noirs(ベット・ノワール)は、「嫌われ者」です。嵐の前に飛んでくる小さな虫を、bêtes d'orage(ベット・ドラージュ)と言うそうです。まさに、嫌われ者ですね。