連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.03 2017_09_01

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「え」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■え■

エイ・トゥー・ズィー(『A2Z』)
直木賞作家、山田詠美の長編。この不思議な題は、アメリカの新聞広告で文字数をケチるため"for"を4、"you"をUで代用する方式。要は「A to Z」。各章にAからZまでの英単語が一つずつ出てきて、女性編集者と郵便局員の恋愛話に絡む。表紙はシャンパーニュを飲む女だし、話にヴーヴ・クリコやクリュグが登場するので、山田はかなりシャンパーニュ好き。それなら、「シャンペン」ではなく「シャンパーニュ」と書く方がプロ度が高いと思う。(関連項目:蚊取り線香スタンド)

えきのそばのまるい(駅のそばの丸井)
駅に隣接して大型店舗を構える首都圏のオシャレ系百貨店。Moinneを「モワンヌ」、Leroyを「ルロワ」と読むように、フランス語の "oi" と "oy" は、「オワ」と発音する。だから、「駅のそばの丸井」の壁に大書した「OIOI」を見るたびに「フランス人は『オワオワ』と読むんだろうなぁ」と余計なことを考えてしまう。

エシェル (echelle de cru)
シャンパーニュの風変わりな格付け。100~80%の数字で表す。この数字は、標準ブドウ価格の何パーセントで自分のブドウを買い付けてくれるかを示す。村とブドウの色(白、黒)が同じなら、畑や生産者に関係なく一律同じ値というのはちょっと乱暴。なお、100%格付けを特級、99~90%を1級と呼ぶ。(関連項目:100%格付け)

SSI (Sake Service Institute)
日本酒サービス研究会の略。1990年、本醸造、純米、吟醸等の特定名称を使い高級清酒と一般酒を区別し始めたことを受け、同年の年末に、日本ソムリエ協会の3人の理事、右田圭司、木村克巳、田崎真也が設立した組織。きき酒師を認定している。ワイン関係者は日本酒が気になるようで、1998年に初来日したパーカーは、日本酒を200種類試飲し、結果を「ワイン・アドヴォケイト」誌の1998年10月号に載せた。(関連項目:きき酒師、吟醸酒、特定名称の清酒、パーカー銘柄の日本酒)

エスプリ (Esprit)
本来は「機知」の意味だが、酒の世界では、蒸留酒の二回目の蒸留でできる酒の意味。一回目がスピリッツ(魂)で、二回目がエスプリ。なんとなく納得。(関連項目:スピリッツ)

エスプリのシャンパーニュ
CIVC(シャンパーニュ委員会)がシャンパーニュを4つのタイプに分類したうちの一つ。軽やかでキレがありフルーティーなシャンパーニュがこれ。「魂のシャンパーニュ」の対極で、「魂のシャンパーニュ」が大御所ファッション・デザイナーなら、こちらは、二十才で装苑賞を受けた初々しい新人。シャンパーニュ・ハウスが一番力を入れているノン・ヴィンテージ物の大部分がこれ。(関連項目:魂のシャンパーニュ、ボディのシャンパーニュ、ハートのシャンパーニュ)

FCL (Full Container Load)
輸入業者用語。フル・コンテナーの意味。フルコン、ワンコンと略すことがある。海上輸送する場合のコンテナーの中に、同じ物(ワイン)しか入っていないこと。「このワインは、混載(LCL)じゃなくて、フルコンで運んできました」と威張る業者もいるけれど、リーファー・コンテナー(定温コンテナー)でなければ条件は同じ。(関連項目:アンダー・デッキ、LCL)


LCL (Less than Container Load)
輸入業者用語。混載の意味。小さい輸入業者は扱うワインの量が少ないので、ワインだけでコンテナーを一杯にできないことがある。海上輸送費を節約するため、農産物、雑貨品、衣類、古紙、機械部品の隙間にワインを一緒に入れるのが混載。ワイン以外は熱に強いので、リーファー・コンテナーを使わないケースがほとんどだし、他の物品を通関する間、炎天下で数日待たされることもある。フル・コンテナー(FCL)に比べると、ワインの熱変化が心配。(関連項目:アンダー・デッキ、FCL)

エレヴァージュ (elevage)
樽に入ったワインを躾すること。子供も躾により、ヤクザになったり世話好きの保母さんになるように、ワインも樽熟成の期間が変わったり、樽の種類が変わると、全く違うものができる。樽売りのオスピス・ド・ボーヌが業者によって違うワインになるのはこのため。