連載コラム

浅妻千映子の最新レストラン事情 Vol.07 2018_01_19

〜年始の大吉イタリアン〜

一月も半分以上が経ってしまったが、今月はあまり外食をしていない。
お正月があったから、というのも理由の一つではあるけれど、大きな理由は娘がインフルエンザにかかってしまったからだ。
かかると結構厄介である。発熱した日をゼロ日目として、5日目まで家にいなくてはならない。つまり、最低でも6日間、家にいることになる。
というわけで、看病のわたしも、きっちり6日間、家から出られなかった。
うつらなかったのは幸い、でも一日23時間以上マスクをつけ、広くもない家にこもりっぱなしというのは、相当、辛かった。飲む、というわけにもいかないじゃないか。

 そんなとき、怖いほど明確に、食べたいものと飲みたいものが頭に浮かぶ。一番食べたかったのはカスレだ。アツアツの柔らかい豆と肉をフウフウしながら、教科書通りではないけれど、以前あそこの店で飲んだようなスパイシーなローヌの赤を合わせたい、とか、和系だったら、鴨南蛮。スライスした鴨だけでなく鴨団子も焼いたネギも入っていて、脂は浮きすぎずにちょっと甘めの汁がいい、とか。異常に具体的なビジュアルが浮かんでくるのは食いしん坊だからなのだろうか。

が、しかし、どちらにもまだ手を出せていない。
カスレは六本木の「ブーケ・ド・フランス」か、代官山の「ル・コントワール・オクシタン」あたりを狙っている。来週こそは!

さて、愚痴めいた話から入ってしまったが、今年は外食についていないな、なんて思ったわけではなく、むしろ幸先がよかったのだ。
一月、最初に訪れたレストランはイタリアンで、ここが大当たりだったからだ。

西麻布、外苑西通り沿い。「シカダ」の跡地と言ってピンと来る人もいるかもしれない。実は、前情報もなく、予約もなしで訪れたのだが、「アンティキ・サポーリ」という店で、プーリア料理の店だった。ブーツのかかとのところだ。
店内は広々していて、今どきの雰囲気はない。見渡したら、イタリア人らしき数名を含んだファミリーが集っていて、「おっ」と期待してしまった。

前菜が、次から次へと出てくる。
といっても、これまた今どきの少量多皿コースの洗練された前菜とは全く違う。いい意味で田舎っぽさが前面に出る。例えば、野菜の煮加減なんてクタクタだ。
パスタは、地方色豊かで特に充実。選ぶときは、見せてくれながら説明してくれる。
耳たぶ型のオレキエッテが炭を練り込んで黒かったのが面白かった。
メインのお勧めは、馬肉の焼いたのとサルシッチャの盛り合わせだそうで、素直にこれにして正解。

全体に、塩味は直接的ではないが、じんわりとまろやかに、しかし奥深くまでしっかりきいている。思わずワインが進む味というやつだろう。
このところ食べ慣れている味より強く、家に帰ったら少し喉が渇くかもしれないとは思ったが、とてもおいしく感じる。
グラスワインが手ごろな値段で美味しく楽しめたのもポイントが高い。

食後がユニークだった。
なんと食後酒が飲み放題! リモンチェッロ、リモンチェッロにミルクを混ぜたというもの、アマーロと3種類の瓶が出てきて、小さなグラスも一人に3つ。
あとは自由にどうぞ、だそうだ。

一緒に行った友達のうち一人(男性)が、「絶対また来る」と、ショップカードを持って帰っていた。あまりそういうタイプの友人ではないので、相当ツボにはまったのだと思う。 
雰囲気、味ともに、誰が訪れても楽しく、間違いのない店だと思うが、どちらかというと、女性より男性受けしそうな店ではある。特に食後酒は、お酒に強い男性にはウケるに違いない。

わたしとしては、何しろ席数があるから、このレベルにして予約が当日でも取れるのはとてもポイントが高いと思う。値段も、最近のレストランとしてはかなり良心的である。

■ブーケ・ド・フランス
http://bouquetmme.exblog.jp/

■ル・コントワール・オクシタン
http://www.pachon.co.jp/jpn/bistro_broche/

■アンティキ・サポーリ
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130703/13159153/