心に残るワインに出会ったときは、その素晴らしい香りを具体的に言葉で表現したり、ノートに書き留めたり、さらに生き生きと人に伝えたいと思ってしまいます。でもそれは、中々難しくもあり現実には「どこかで、かいだ香りなのにうまく言葉にできない・・・」と、思ってしまうことも。今回体験した「ワインの香りを探る」講座は、そんなもどかしい思いを解決し、香りの言葉を豊かにしてくれた楽しく魅力的な講座でした。
|
 |
 |
 |
|
| ワインの中の香りを明確に楽しく伝えてくださる楠田卓也先生 |
|
担当講師の楠田卓也先生はこの講座を開設した動機について次のように語ります。「アカデミー・デュ・ヴァンで講師をしながら、生徒の皆さんから一番多く相談されたのは、ワインの香りのことでした。この香りはなんと表現したらいいのですか?
こんな言葉で表現してもよいですか? このような香りがするのはなぜですか? そんな疑問に答えたくて、この講座をはじめました。ワインの香りの研究では世界の最先端にいる、ボルドー大学の富永敬俊博士の著書『アロマパレットで遊ぶーワインの香りの7原色』(ワイン王国社刊)をナビゲータに、7つに分類されるワインの香りを尋ねていきたいと思います」。
毎回講座では、ワインの中に表れる15〜20種類の香りのサンプルを体験したあと、実際にその香りを持つワイン6種類をテイスティングしていきます。全6回の講座では、ワインの香りの7原色ともいえる、フルーティ(果物)、ハーベイシャス(植物)、フローラル(花)、アニマル(動物)、ミネラル(鉱物)、アンピルマティック(焦焙性)、ケミカル(化学性)の香りを体験するカリキュラムとなっています。
|
 |
 |
 |
|
| 黒いグラスに入った香りのサンプルを回し合いながら、和やかに香りの体験は行われます。 |
|
今回体験したのは第5回目。ミネラル(鉱物)とアンピルマティック(焦焙性)の香りを探っていく授業です。まず先生は「よく生徒さんから、『ワインの表現で使われるミネラル香って具体的にどんな香りですか?』という質問を受けます。ミネラルの香りは葡萄が植えられている土壌から由来する香り。たとえば、石灰質土壌に育つ葡萄から造られたワインに強く感じられます。また、収量を絞って丁寧に作られた葡萄からも表れる香りであり、ワインにとっては誉め言葉の一つです」と説明します。
確かに私も、今までシャブリやシャルドネなどの白ワインから、漠然とミネラル香を感じることはあっても、深くこの香りと向き合う機会はなかったため、これはとても貴重な体験だと、思わず講義に引き込まれていくのでした。
講座で体験したミネラルの香りのサンプルは6種類。@パンナのミネラルウォーターAコントレックスのミネラルウォーター B@のパンナのミネラルウォーターに岩塩を少々加えたものC備長炭の灰DヨードE墨汁
これらのサンプルは中が見えない黒いグラスに入っており、まずブラインドで、何の香りなのか、どういう印象なのか探っていきます。その際、6人ぐらいのグループになり、番号が付いたグラスをまわし合い、みんなで感想を言いながら香りを探りあてていきます。それはまるで香りのゲームを楽しんでいるかのようで、教室はとても和やかな雰囲気です。
|
 |
 |
 |
|
| ワインも香りのサンプルも、ブラインドで体験。グラスには楠田先生が毎回テーマ別に工夫して作る、貴重な香りが込められています。 |
|
Aのミネラルウォーターは、普段は飲んでいると意識することがないのですが、ブラインドで香りをかぐとミネラル感が際立って感じられてくるから不思議です。特にBのように岩塩を含ませると、単に水だけで飲むよりも、カルシウムやマグネシウムといったミネラルの鉱物的なニュアンスがとらえられ、興味深い体験となりました。
また先生から、Cの灰の香りDのヨードの香りも、ミネラルの香りの分類に入りワインの中に含まれる香りであると告げられました。「灰は熟成が進んだカベルネ・ソーヴィニヨンから表れやすい香り。さらにヨードの香りはカキからよく感じられる香りで、シャブリのワインにはこのヨード香が多く含まれます。これはシャブリ地区の、特にスラン河を挟んで左岸の土壌はカキ殻の堆積が多く、葡萄はそこからヨードを吸い上げるため、仕上がるワインにもヨードの香りが含まれるといわれています」と先生は説明します。よくカキとシャブリは非常に相性の良いマリアージュの代表といわれますが、こうした根拠があってのことだったのかと、目から鱗の講義となりました。
|
 |
さてもう一つのアンピルマティックの香りについても講義は進められていきます。アンピルマティックは焼いたような、煎ったような、燻製したような香りのことで、たとえば、煎ったナッツやコーヒー豆、トーストしたパンやグリエした肉などの香りをいいます。ミネラルの香りが土壌からもたらされた香りであったのに対し、アンピルマティックの香りは、樽熟成や発酵中の環境を伝える香りであると先生は説明します。
体験した香りのサンプルは@ノワゼットAアーモンドB焼き栗CローストビーフDトーストしたパンEブリオッシュF煎ったコーヒー豆Gスモークしたチップ。
アンピルマティックの香りはどれも美味しそうな香りばかりで、受講生同士の意見交換もはずみます。「煎ったコーヒー豆の香りは樽で熟成した白ワインから感じられた記憶がある」「ブリオッシュの香りはシャンパーニュから感じる香りに似ている」など、活発な意見が飛び出します。
|
 |
さらにこの講座で有意義なのは、単にワインに表れる香りを体験するだけでなく、これらの香りがどんなワインに表れやすいか、また、なぜこのような香りがするのかを具体的に学ぶことができることです。たとえば先生は、ノワゼットやアーモンドの香りは基本的には白ワイン用の香りで、特にシャルドネから造られたワインの形容に用いられるといいます。一方焼き栗は、赤ワイン用の香りで、基本的に濃厚な赤ワインの形容に使われ、ロバート・M・パーカーJr.氏の批評の中にもしばしば登場する香りであるといいます。またブリオッシュは、やや古いシャルドネやヴィンテージ・シャンパーニュから表れやすい香り。コーヒーは赤、白どちらのワインからも表れ、なかでも新樽発酵させた銘譲ワインから見つけやすい香り。たとえば、シャトー・フューザルやドメーヌ・ド・シュヴァリエの白ワインなどからも顕著に表れる香りであるなど、次々と興味深い講義が語られました。
|
 |
 |
 |
|
| 香りの体験と知識を結びつけながら、最後は最も興奮し楽しみなテイスティングに望みます |
|
さて、こうした香りの講義と体験を結びつけながら、最後は授業の総仕上げともいえるブラインド・テイスティングを行います。今日体験した香りが含まれる6種類のワインを実際に試飲していくのですが、果たして、ミネラル&アンピルマティックの香りはとらえることができるのでしょうか。試飲したワインは次のとおり。
@リースリング・シュタインハウス2005年 ヒードラー
@ヴーヴ・クリコポンサルダン1988年 ヴィンテージ・レゼルブ・ブリュット
Aシャサニュ・モンラッシェ・クロ・サンジャン1993年 ルモワスネ・ペール・エ・フィス
Bシャンボル・ミュジニー・プルミエ・クリュ2000年 ドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ
Cソリ・サン・ロレンツォ1996年 ガイヤ
Dサッシカイヤ1997 年 テヌータ・サン・グイード
いずれも芳醇な香りを記憶に残したいと思う、素晴らしいワインばかり。Aの1988年のヴーヴ・クリコからはまさに溢れんばかりのミネラル香が、さらにブリオッシュの上品な香りが時間の経過と共に表れます。Bのシャサニュ・モンラッシェからは、確かに焙煎した上質のコーヒー豆の香りと、肉をローストしたような香ばしさが。Cのシャンボル・ミュジニーは果実香が中心に感じられるものの、その背後からはコーヒーや焼いた栗の香りが。そしてD、Eからは上質なカベルネ・ソーヴィニヨン種のワインに表れやすいという、灰や薫製香がはっきりと感じられます。不思議なことに、香りのサンプルをじっくり体験しその意味を学んだことで、以前より多くの香りをとらえことができるようになり、香りへの反応も速くなったことを感じられたのでした。
|
 |
今回の講座体験によって香りへの探究心が益々高まった私は、これまでの回ではどのような香りを体験してきたのかを、受講生の方にうかがってみました。
「様々な花やハーブ、本物のラズベリーやブルーベリーの香りを比べたり、トリュフやアンズダケ、珍しいカシスの芽の香りも体験しました。ワインの中から現れる香りの意味を知り、スパイスやハーブ、野菜や果物などの香りをとらえられるようになると、お料理とワインの合せ方も自然と上手になっていきます。そして何よりも、ワインを飲むがことがとても楽しみになりますね」と語ってくださいました。10月からは同じく楠田卓也先生による「ワインの味覚を磨く」講座も開設されます。
|
コラム記事一覧へ>> |
 |