アカデミー・デュ・ヴァン 講座体験コラム 研究科コース 葉山考太郎の偏愛ワイン道
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講師の葉山考太郎先生は、ユニークな切り口と軽口でワインを語る芸風?で人気のワインライター。実際にお会いしてみると白いシャツの似合うダンディなおじさま……。
葉山考太郎の偏愛ワイン道」は、カリスマ的人気を集めるワインライターの葉山考太郎氏が繰り広げるワイン講座。最後には思わぬどんでん返しが待っている!? と噂される、楽しく愉快な講座の様子をレポートしてみましょう。


ワイン修行道の「息抜き」の場 大笑いしてワインを飲みましょう!
 
4種の白ワインのテイスティングワイン。[3]番目のワインだけがロゼかと思うほど、色が明らかに異なり、香りも超個性的(これも一つの仕掛け!?)。それに対し[1][2][4]はビオワインが苦手な人でもその概念を覆す、エレガントで端整な個性を醸し出す…。
 講師の葉山考太郎先生は「偏愛ワイン道」講座について次のように語ります。
「ワインを学ぶのは絵画や音楽のように芸術を極めるのと似ています。初級、中級、上級と段階的に知識を身につけながら、自分のセンスをピッカピカに磨く必要があります。そんな正統派の修行の道に毎日励んでいますと、例えば、超真面目な高校生のように、たまに授業をサボって映画を見たくなります。この講座はそんな“サボリ”の場、またはワイン・クレージーの“息抜き”、あるいは“高速道路のサービス・エリア”的な存在です。ワインのために金と時間と家族を犠牲にしている人、芸術は“品のある毒”と考える人、正統派だけど正統派と呼ばれるのがイヤな人、そんな方々にご参加いただき大笑いしながらワインが飲めればと思います」。
 1年にバスタブ1杯分のワインを飲み、シャンパーニュとブルゴーニュそして何よりもタダ酒を愛する、と公言する葉山先生。『パリスの審判』(日経BP社)の訳書や『偏愛ワイン録』『クイズでワイン通』(講談社)など数多くの著書を持ち、ワイン専門誌『ヴィノテーク』などにも連載コラム持つ、超人気ワインライターです。
 受講生の中には「先生のコラムやワイン本が大好きで、長年のファン。先生に会いたくて受講しました」「先生は雑誌の対談などではいつもヘンテコなコスプレや覆面ばかり。素顔を拝見したくて受講したところ、意外にも白いシャツの似合う素敵な紳士。毎回ユーモアいっぱいでとても楽しい講座です」と語る方々が。
 その一方で、ある受講生からは「この講座は決して油断をしてはいけません。最後のテイスティングでは、まるで推理小説のように、とんでもないドンデン返しが待っています。その伏線はテイスティング前の講義の中に散りばめられているんです…」とのお話も。
 講座ではのっけから本日の試飲ワインがグラスに注がれ、先生からは「皆さん、どうぞワインを飲みながらリラックスして講義を聞いてくださいね~」とすでに油断を誘うようなお言葉が。なにやら面白そうな体験講座となりそうです……。
講義のテーマは「ビオワインは本当に美味しいの?」まずはビオワインの分類を学ぶ
 
毎回、テイスティングワインにはあっと驚く仕掛けが潜む。先生の挑戦に果敢にテイスティングに挑む受講生の皆さん。葉山先生は、各受講生のコメントを「はぁ、ほう」とあいづちを打ちながら深く聞き入り、時に机の下で回答ワインの銘柄を確認するふりをして撹乱する。
 今回受講したのはビオワインについて学ぶ回。葉山先生は「今日は私が非常に苦手なビオワインのお話です。ビオワインと何ぞや。そしてビオワインは本当に美味しいのか、を探ってゆきましょう」と笑顔で語ります。
 先生はかつてビオワインが苦手で「ビオワインを飲みにいきましょう」と誘われても「今日は水戸黄門の最終回があるので帰ります!」と逃げていたそうです。その先生がワイン雑誌で行なわれたビオワイン第一人者との試飲対談を通して、また、ニコラ・ジョリーをはじめとする生産者へのインタヴューを通して、実際に体感した事柄を交えながらビオワインの面白さを軽妙に講義してくださいました。
 まずはビオワインの分類について。私はいままで、かなりいい加減にビオという言葉を使っていましたが、ビオワインは厳しい人から暖かい人へ[1]①ビオディナミ認証あり[2] ビオディナミ認証なし [3]ビオロジー認証あり [4]ビオロジー認証なし [5]減農薬(リュットレゾネ) [6]無関心、の6つに分類できるそうです。
「[1]はビオディナミの認証を受けてラベルにもマークが付いたワイン。ビオディナミとは、有機農法+占星術+儀式ともいいましょうか、有機農法に加え、星や月の運行に準じて農作業を行なったり、牛の角に詰めた水晶の粉や牛糞を畑に蒔いたりする農法です。[2]はビオディナミの認証機関に申請はしないけれど、うちはきちんとビオディナミでやっていますよ、というワイン。まあ昔の無鑑査2級酒みたいなものですね。[3]は除草剤や殺虫剤、化学肥料を使わない有機農法のビオロジーの認証を持つワイン。[4]は認証はないがビオロジーを実践しているワイン。そしてその下の[5]が減農薬であるリュットレゾネのワイン。このあたりからちょっと怪しくなってくるんですね。この減農薬は、化学肥料や農薬を必要なときのみ最小限に使用するという立場。各生産者のいわば自主規制であり、その頻度や総量は生産者によって非常に大きな差があります。たとえば除草剤とか化学肥料は高いからバンバン蒔けない、なので8割とか6割でいいやといった場合。さらに極端なことを言えば、規定より耳かき一杯分化学肥料を蒔く量が少ない場合でも減農薬といえます。近年は自然志向が流行し、減農薬はキーワードになっています。でも実際[6]の無関心派であっても農薬、除草剤をバンバン使っています、という所はもうないので、現在はほとんどの生産者が減農薬という風にも考えられます。つまりビオワインというのは[1]~[4]までと考えるのが妥当でしょう。減農薬といわれるワインは、単に流行にのってそう謳っているだけなのか、本当にできる限り農薬を使っていないのか、を疑いながら見ていただければと思います」と語ります。
ビオワインの派閥を相関図で学ぶ ニコラ・ジョリー派は自民党!?
 
曖昧で混沌とした「ビオワイン」なる概念を、楽しくわかりやすく説明する葉山先生。講義は先生の著作同様、ユニークでとにかく面白い。
 さらに講義は“ビオワインの流派”に及びます。一概にビオワインといっても色んな流派があるそうです。先生は自然派ワイン流派マップを見せながら、興味深く生産者の派閥や相関関係を伝えてくださいました。
 自然派ワイン生産者には、環境重視型の「ニコラ・ジョリー派」、そこから派生した品質重視型の「GEST(ゼスト)派」、ニコラ・ジョリーとは独立して進化した反亜硫酸派の「マルセル・ラピエール派」と臨機応変型の「ジャン・ド・メティエ派」、そしてどこにも属さず誰とも群れない「1匹オオカミ派」などの流派があるそうです。先生はこれらの流派についても一つ一つ詳しく説明してゆきます。
「なかでも、ニコラ・ジョリー派は一番でっかい派閥で、いわば自民党のようなもの。ニコラ・ジョリーは“ビオの教祖さま”にして“ロワールの鬼才”ともいわれる人で、ビオ信者を増やすべく世界中を精力的に巡回しています。ニコラ・ジョリー派の特徴は自然重視型+儀式。ワインは自然環境が生み出すごく一部であり、土の中、土の下、上空、川など自然環境をよくしないとよいワインはできないと考え、それに加え、牛の角に水晶の粉を入れて、まるで宗教の儀式のように畑に蒔きます。1ha当たり、ふりかけ1袋分ぐらいの少量の水晶の粉ですが、これがなぜか非常に畑によく作用するのだそうです。この不思議な儀式が多いニコラ・ジョリー派とは独立する派閥が、マルセル・ラピエール派。ここは亜硫酸を使わない反亜硫酸派で、亜硫酸を使いたくないので農薬を蒔かないようにしています。結果的にはビオワインですが、動機はニコラ・ジョリー派とは全く異なります」などのお話が伝えられました。同じビオワインでも様々なお家事情があるんだなぁ、と深く聞き入ってしまいました。
ビオワインの教祖様、ニコラ・ジョリーってどんな人?
 さらに先生はニコラ・ジョリーのセミナーを受けたとき、単独インタヴューしたときの様子を熱く語ってくださいました。ビオの教祖様であり、世界的に偉大なワイン「クロ・ド・ラ・クレ・ド・セラン」の造り手の情報とあって、受講生の皆さんも興味津津です。
「彼は常にエンジン全開の人。9時から5時までの長時間セミナーの最中もずっと立ちっぱなし。ウロウロと壇上を歩き回りながらマイクも使わず、300人も入る会場に響き渡る大声で講演を続けます。その後の単独インタヴューでもちっとも座っていられず、やっぱりウロウロ歩き回ってエンジン全開。きっと小学校のときの通信簿には“落ち着きがありません”と書かれたに違いありません。彼の命ともいえるクレ・ド・セランの試飲会では必ず4日前に抜栓したものと、飲む直前に抜栓したものが出されます。それを比べさせて、4日たっても酸化しないだろ~、酸化しないどころか香りが開いていて凄いだろ~、ビオディナミで造るとこうなるんだよ~、と熱く語りかけます。私はその一本をもらって1週間テーブルに放置しておきましたが、酸化香が全く現れない。まるで、春夏秋冬と季節が変わるようにきれいに熟成してびっくり。彼はビィオデナミで造るからだよ、といいますが、ビオディナミで造っても馬小屋臭のするワインもある。造る人はハチャメチャなのにどうしてこんなにきれいで美味しいワインが出来るのだろうと深く感動いたしました。ニコラ・ジョリーをはじめビオディナミ生産者に共通するのは、みな物凄く真面目であること。真面目であるから人柄を感じさせるワインが生まれ、ひいては美味しいワインができる。ビオはワインだけでなく造る人を見ていって欲しいと思います」と先生はニコラに負けないほど熱く語ってくださいました。
「健康娘」と「都会風美女」亜硫酸添加量の違いによって、異なるワインの味わい
 さて講義の最後にはビオワインを語る上で重要なキーワードとなる「亜硫酸」に関する話も伝えられました。亜硫酸は主にワインの酸化防止の目的に添加するもの。先生は過去に雑誌の対談で、亜硫酸完全無添加の白ワインをベースに、少しずつ亜硫酸を加え、0、5、15、30、60、90、120、150、200ppmの9種類のワインを作って飲み比べをした経験があるそうです。その違いを先生特有の表現で次のように説明します。
「0ppmは田舎のポッと出の芋ネエチャン。南国のフルーツやジャムのようなよく開いた香りですが、美味しいとはいえません。一方200ppmは高層オフィスに勤務する化粧バッチリの都会派美女。クリーンだけど香りが痩せて閉じていて、コンクリートを舐めてるような感じでもあります。それが60ppmくらいになると、ああいつも飲んでいる味だな、と妙に懐かしい感じに。もともとの美貌を最大限に残しつつ、宮中晩餐会に参加するために薄化粧をした美女のイメージです。以降数字が増えると、金属的になり、ステンレスの流し台を舐めているような感じになっていきます」と次々とコメントが炸裂してゆきます。途中受講生からは「亜硫酸の少ない目安というのはどれぐらいでしょうか」という全うな質問が。先生からは「赤ワインは50~60、メドック1級格付けで60ぐらい。白ワインは100以下だと少ない。甘口ソーテルヌなどですと250はあるかと思います。赤ワインは抗酸化作用があるので亜硫酸は少なくて済むそうです」と伝えられました。
 ユニークな表現で終始わかりやすくビオワインの講義を行なう葉山先生。先生のお話を聞いていると、今まで頭の中で混沌としていたビオワインの概念が、明確に整理されてゆく心地よさを感じます。ゆるゆるとワインを飲みながら「楽しいうえになんて勉強になる講座なんだろう~」と、次第に私の警戒心も緩んでゆきました。しかしこの後のテイスティングでは予想も付かない結果が待ち受けていたのです。
テイスティングワインには、あっと驚く仕掛けが隠されていた。
 
メガネを逆さに掛けて最後までサービス精神満点の葉山先生。いよいよ銘柄発表に。テイスティングワインは、[3]がグラブナー・ビアンコ・ブレッグ・アンフォラ2001で、残り[1][2][3]はなんと抜栓時間が異なる全て2004年の「クロ・ド・ラ・クレ・ド・セラン」。中でも[2]の4日前は、一番美味しいと、受講生からの人気が高かったもの。驚く受講生に対し「今日も楽しかったですか?」とうれしそうな笑みを浮かべる先生。
さあ、いよいよテイスティングの時間です。受講生は改めてビオワイン4種を真剣に試飲しながら、国や銘柄、ぶどう品種を探っていきます。先生は講義での温和な表情とは一変し「今日のワインを全部当てたら、この先20年はエバレますよ。フフフ…」と不敵な笑みを浮かべています。受講生のほぼ全員がバシバシと指名され、次々とテイスティングコメントを語ってゆきます。受講生の皆さんは、先生が講義でニコラ・ジョリーについて熱く語っていたことを思い出し、「絶対に4本の試飲ワインの中にはクレ・ド・セランが入っているだろう」と鋭く察知。多くの人が、中でも一番美味しいと感じた[2]のワインにその銘柄をあげていました。他の[1][4]については、ブルゴーニュではないか、いや、日本のビオワインでは、など様々な意見が飛び出します。
また、講座体験者の私も最後の最後にコメントを求められ、いきなりなフェイントにたじろぎます。「[1]はアタックが柔らかくよく開いていて熟した果実の香りと円やかな旨みが感じられます。[2]は生き生きとした酸を持ちとても力強く、白い花のような高貴な香りが溢れ、これがクレ・ド・セランかも。[3]は白ワインなのにロゼ色に近く、ヨモギやドクダミみたいな薬草の香り。口当たりがきつくちょっと厳しい風味です、[4]は白い花や白いフルーツの香りを備え、酸とミネラルが豊かですが、まだ閉じています。ブルゴーニュのシャルドネかな…」などと、なんとか攻撃をかわし終わりホッとしたのもつかの間。いよいよ先生から本日のビオワイン4種の銘柄が発表されることとなりました。
その結果は…、なんと[3]以外の[1][2][4]全てが2004年ヴィンテージの「クレ・ド・セラン」。しかも[1]は一日前に抜栓。[2]は4日前に抜栓。[4]は講座の直前に抜栓したものでした。クレ・ド・セランは、「抜栓して長時間経ても酸化することなく、季節が変わるように美しく熟成していきます」と語っていた葉山先生の言葉どおり、まさにその素晴しさを目の当たりにする結果となりました。一人も正解者がいなかったことで「してやったり!」と満面の笑みの葉山先生。そして再度、偉大なワインを繰り返し堪能する受講生の皆さん。感嘆の声が教室中に響きわたりながら、みごと「偏愛ワイン道」講座の幕は閉じたのでした。
講座終了後、受講生の一人が「今日も先生の鮮やかな1本勝ちです! いつもこんな感じで、愉快な仕掛けやどんでん返しがどこかに隠されているんですよ。あぁ、また、やられてしまいました」と語りながらも嬉しそうな笑顔が印象的でした。

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