アカデミー・デュ・ヴァン東京校 講座体験コラム
テイスティングを深く頭で理解し、理論展開できるテイスターを目指す
研究科 ロジカル・テイスティング
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 「ロジカル・テイスティング」は、テイスティングを深く頭で理解し、理論展開できるテイスターを目指すための講座です。「骨格がある」とはどういうものなのか? 一口に酸味といってもどんな酸味なのか? 典型的なブルゴーニュと新世界ピノ・ノワールの酸味には理論的にどのような違いがあるのか? などテイスティングについて真剣に考え、その能力を磨いていきたい人のみを受け入れる講座です。今回はこの講座を体験した様子を詳しくお伝えしてみましょう。


テイスティングについて真剣に考える人限定
頭の思考と味覚嗅覚を結びつける訓練を行いながら「どのようなワインであるか」を論理的に表現していく講座
 講師の松元寛樹先生は、ワイン情報サイト「バリックヴィル」を主宰し、年間で2000種類ものワインを試飲するメインテイスターです。以前ワインバーを経営していたとき、400種類のグラスワインをどのように表現するのか良いかを悩み始めるうちに、論理的にワインを表現する独自の方法を生み出し、同時にそれらを表やグラフに収束してゆきました。この講座では先生がまとめ上げた貴重なデータを教材に、味覚嗅覚と頭の思考とを結びつける訓練をしながら、「このワインはどのようなワインであるか」を論理的に表現できるテイスターをめざしてゆきます。
 受講生の中には「ワインの味わいを感覚的、主観的ではなく、もっと具体的、論理的に理解して表現できるようになりたい」との思いで通い始めた方が多く、テイスティングについて真剣に考え、その能力を磨いていきたい人の講座であることを強く感じます。また全8回の講座では毎回テーマが設けられ、それについての講義と議論、個人とグループのワークショップで構成する参加型の講座であることも特徴です。

 今回は第4回目を講座体験することとなり、大きく分けて3つのテーマについて学びました。それは、①熟成によって生まれるワインの複雑さについて、②味わいの変化をもたらす原因とワインのうまみについて、③骨格、エレガント、テクスチャーなど、ワインのニュアンスの定義について、です。これらについて講義で学んだ後、テイスティングによって論理と味覚嗅覚を結びつけ、実際にワインの中に存在する、複雑さ、うまみ、エレガンス、骨格のニュアンスなどを、つかみ取りながら表現してゆきます。
熟成によって生まれるワインの「複雑さ」を学ぶ
 まずはワインの複雑さについての講義です。先生は「若いワインの複雑さと、熟成を重ねたワインの複雑さの違いとは何か」また「ワインは熟成を重ねるうちにどのような風味に変化しながら、複雑さを増していくか」を具体的に講義してくださいました。
「ワインの風味の系統には、花系、果実系、ハーブ系、樹木系、新樽系、動物系、土・ミネラル系などがあります。その中で、花、果実、ハーブの3つの風味だけであったら、爽やかでフルーティで深みを感じさせるワインではないかもしれない。しかし樹木、新樽、動物、土やミネラルの香りが多く入ってきたら複雑さのあるワインといえます。つまり、風味のスペクトラムの広さが、すなわち複雑さといえます。また、ワインは世の中で最も時間的に『動的』な飲み物であり、時間の経過と共に熟成してゆきます。ワインの中に存在する様々な成分が重合・変化しながら熟成し、そして複雑さが生まれます。この複雑さこそがワインの命です。では、若いワインは熟成していくと、具体的にどのように変化していくのでしょうか?」 先生は以下の図を示して、熟成に伴う風味の変化を具体的に伝えてくださいました。

 
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「たとえば花、果実、草やハーブの風味は、熟成によってドライフラワーやドライフルーツ、ドライハーブといったドライもの系の風味に変化します。また、新樽系や樹木系の風味は、焦げ系や土系の風味に変化。また若いワインの中には血や生肉のような動物系の風味を備えるものありますが、それらは熟成するとビーフジャーキーやなめし革のような香りに変化していきます。さらに動物系、ケミカル系、土・ミネラル系の風味は、この後詳しく説明しますが、鰹節、漬物、干ししいたけのような"うまみ系"の風味にも変化していきます」
ワインの中に存在する「うまみ」の成分を学ぶ
ブルゴーニュワインにうまみが多い理由は?
 
先生が作成した詳細な資料を手元にいただき、同時にスクリーンに映し出しながら授業は行われます。数学の問題を解くように解答を記入したり、みんなで論議しながら授業が行われる場面も。
 では、熟成によって生まれる“うまみ系”の風味とはどのようなものなのでしょうか。続いてはワインに存在する「うまみ」について詳しく講義が行われました。よく私も「このワインにはうまみがある」という表現を何気なく使うことがありますが、確かにワインの中にうまみは存在するそうです。先生は「ワインに感じるうまみとは具体的にどのような成分で、どういうワインに多いのか」また「どのようにして生成されてくるのか」を、論理的に伝えてくださいました。
「“うまみ”は40年前、日本人によって発見されたもので、うまみを感じる味蕾が舌の上にあるということを世界に認めさせたのも日本人。英語でもうまみはそのまま“UMAMI”と綴られます。日本の漬物や鰹節、昆布や干ししいたけなどに含まれるうまみは、実際にワインの中にも存在しています。たとえば漬物系のうまみを一番多く備えているのは、熟成したブルゴーニュワイン。漬物系の風味の成分は“グルタミン酸ナトリウム”で、これはワインの中にある乳酸菌からアミノ酸が生成され、さらにそれが熟成とともにグルタミン酸になり、やがてナトリウムと結びついて生まれた成分です。つまり漬物に存在する“グルタミン酸ナトリウム”の風味は、ワインが熟成することでも実際に生成されています。また、“グルタミン酸ナトリウム”は海藻類の中にもかなり入っていますが、大昔ブルゴーニュの土地は海の下にあったため、その土壌には海藻類の持つグルタミン酸ナトリウムがそのまま溶け込んでいます。そうしたこともあってブルゴーニュワインには、うまみ成分が多く含まれ、これこそがブルゴーニュのテロワールの意味ともいえます」と語ります。
 また同じうまみでも、干ししいたけ系のうまみを持つワインもあるとのこと。それはボルドーの熟成したワインから多く感じられるそうです。ボルドーワインは熟成するとトリュフの香りが表れてきますが、この香りの原因は、シイタケなどキノコ全般から由来する“グアルニル酸2ナトリウム”であるためだそうです。
複雑さ、うまみ、熟成香を、テイステイングでリアルに感じ取る
 このように先生は、ワインの複雑さ、熟成に伴う風味の変化、うまみ、についての講義を行いながら、実際に受講生にそれらのことを強く感じてもらうために、次の2組のワインを比較試飲させてくださいました。

①Fino Tio pepe:生産者Gonzales Biass
②Amontillado 12Years Old:生産者 Williams&Humbert
③Chardonnay karia 2005:生産者Stags Leap
④Puligny‐Montrachet 1er Cru Clos de la Garenne 2001:生産者Louis Jadot

 まず、①のフレッシュなティオペペのシェリーと、熟成させた②のアモンティリヤードのシェリーを比較試飲すると、確かに熟成を経て表れてくる風味やうまみがどのようなものなのか、しっかりと感じ取ることができます。たとえば熟成させた②のAmontillado 12Years Oldの香りからは、まさに漬物系の風味が、さらにローストしたアーモンド、干した葡萄などのドライもの系や焦げ系の複雑な風味が表れています。また①のFino Tio pepeの酸味は溌剌としたアタックがあり、余韻にも酸が強く感じられ、エキスにもダイレクトに伝わるボリュームを感じます。その一方で②のAmontillado 12Years Oldは、熟成を重ねたことで酸味にも円やかさがあり、後からジワッとやってくる印象。エキスに関しても、熟成を経て様々な成分が重合され、豊潤な丸みを帯びた質感を感じとることができました。

 次に③と④のワインを比較試飲してみますと③のChardonnay karia 2005は柑橘系や白い花の香り、酸も生き生きとフレッシュでフルーティな印象を感じますが、④のPuligny‐Montrachet 1er Cru Clos de la Garenne 2001は熟したリンゴや、ドライアンズのほかに、煎ったナッツの香りやカラメルなどのドライ系の香りが表れ、明らかに熟成が進んで香りや味わいに複雑さとうまみが生まれていることがわかります。
 これまで漠然ととらえていた複雑味、うまみ、熟成感を、今回こうして論理的に学び実際に比較試飲してみたことで、リアルに感じる取ることができとても貴重な経験となりました。
ニュアンスの定義法について学ぶ
 
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 さて講義の最後は、先生はワインのニュアンス表現について学ぶ機会となりました。先生はワインのニュアンスの表現には、直接的表現と印象的表現があることを伝え、具体的に次のように資料にまとめてくださいました。

 また、ニュアンスを具体的に定義する方法として、次のようなチャートを作って分析してみるとより明確になることも学びました。このチャートはワインの評価項目に、甘み、酸実、タンニン、ミネラル、アルコール、エキスを取りあげ、それらの質感と量感の軸を決めてプラス、マイナスの要素で表わしています。

まず、プラスvsマイナス要素として
酸味成分:「輪郭」vs「果汁感」
タンニン:「細かい」vs「粗い」
アルコール:「しなやか」vs「粗い」
エキス:「複雑」vs「シンプル」


というようにそれぞれの質感の軸を決めます。そしてテイスティングで、「酸味成分とタンニンの量感は少ないけれど、質感において酸味は輪郭があり、タンニンは細やかで、エキスは複雑である」ことが分析されれば、「エレガントなワイン」であることがわかります。
 また、「若いワイン」の場合はエレガントなワインとは明らかに異なり、「酸味、タンニン、ミネラル、エキス、アルコールの量感は非常に豊かだが、質感においては、酸味には果汁感が多く、タンニンやアルコールは粗く、エキスはシンプルである」とチャートに表れます。講座では他にも、「新世界ワイン」「リッチなワイン」「カジ
ュアルな薄いワイン」のチャートが提示され、それらを読み解く授業が行われました。  このようにチャートを作りながらテイスティングしていけば、ワインのニュアンスが明確に定義でき、どういうワインかを具体的に分析できることがわかり、とても興味深い講義となりました。
常に量感(intensity)と質感(charater)を意識して
テイステイングすることの大切さを知る
 
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 さてこうした講義の後は、今日学んだことを頭に入れながら次のワインをブラインドでテイスティングし、受講生同士で議論をしながら発表してゆくこととなりました。
⑤Nuits-Saint-Gerorges2003:生産者David Duband
⑥Hemitage Rouge La Siselanne2003:生産者M.Chapoutier
⑦Clos des Lambrays1998:生産者 Taupenot Merme
なおこの講座は、他の講座とは違い、松元先生が独自に編み出したテイスティングシートを使ってテイスティングをしてゆきます。

 テイスティングしていく要素は、色、香り、甘み、酸味、渋み、アルコール、エキス(香りの成分量)、全体のバランス、ボディ(濃さ)、パワー感、繊細感、全体の印象と多岐にわたります。(これらの要素はワインを構成している重要な要素でもあるため、一つ一つに関する解説は、これまでの回で詳しく講義が行われてきたそうです)
そしてテイスティングに際して一番大切なことは、常にこれらの要素の質感と共に、量感をしっかり意識すること。量感については5段階で評価していきます。  最後のテイスティングでは様々なことを感じることができました。まず先生のテイスティング方法は、評価項目が細かく設けられ、質感とともに量感についても具体的な数値で感じ取っていくため、ワインのニュアンスをより具体的につかむことができ、同時に他のワインとの違いも明確にとらえることができたと感じました。さらに事前に講義で、熟成によって生み出された複雑さやうまみ、エレガントや骨格について頭で深く理解したことで、嗅覚味覚とすばやく結びつけることができたことも痛感しました。

 たとえば同じブルゴーニュワインでも⑤のNuits-Saint-Gerorges2003と⑦のClos des Lambrays1998を比べてみると…。
Nuits-Saint-Gerorges2003のワインの香りの量感は[3+]で、香りの質感は果実の風味が豊かでブルーベリーやチェリーの香りのほか、バイオレット、コーヒー、鉛筆の芯、ミントの香りが感じられます。また渋みの量感は[4]で、質感は細やかでしなやか、バランスがよい渋みが感じられました。
 一方Clos des Lambrays1998は、熟成によって複雑さとうまみが増し、香りの量感はかなり豊かで[4]、質感はまさに講義で学んだごとく熟成によってドライ系や革系やうまみ系の香りに変化し、ドライイチジクや、なめし革、マッシュルーム、漬物の風味をはっきりととらえることができました。また渋みに関しては[4]となり、Nuits-Saint-Gerorges2003と同じ量感なのですが、その質感は全く異なり、より緻密で収斂性があり非常によく溶け込んでいることが感じられました。
受講後の先生のお言葉と受講者の素直な感想は・・・
 松元先生は受講後に、この講座においての最終的な目標として、次のようなお話をくださいました。「この講座は、何気なく行っているテイスティングコメントをこのように細かく分解して理解するという、ある意味、テイスティングに対してことさら学問のようなアカデミックなアプローチをしていく講座です。ただし最終的には高度な次元で『ワインの内容をクリアに伝えるまとまったコメント』にしていただくべきだと思っています。つまり『分解して理解したテイスティング要素を、コメントとして磨き上げる』という段階です。そこまで到達するのはなかなか難しいことでもありますが、できる限り受講生の皆さんをその目標まで導いていくことができたらと思っています」

 頭の思考と嗅覚味覚を結びつけるトレーニングを行いながら、テイスティングについて真剣に考えてゆくことができたロジカル・テイスティングの講座。正直申しあげて、大変頭脳を使うため、体験講座終了後はかなり疲労感を感じました。しかし、講義で学んだ論理が、テイスティング時にピタッと嗅覚味覚と結びつきワインを的確に分析できたときは何ともいえない快感がありました。
 また講座では全世界のワインを通して、産地経験、品種経験、ビンテージ経験を行い、さらにフレーバーの表現として果物やハーブ、化学品なども教材に使ってゆくそうです。こうしたさまざまな経験を通して、個人が持つ感応度を最大限に伸ばし、ワインを的確な表現で論理的に展開していくことが実現できる講座であるとも感じました。そして何よりも、松元先生が長年のワイン経験に基づいてまとめ上げた貴重なデータや資料を、惜しみなく受講生に提供してくださる点においても、とても素晴らしい講座であると思いました。

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