創立20周年記念連続セミナー 第7回 ビーズ千砂氏「ブルゴーニュの原点 ミネラルと酸」
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アカデミー・デュ・ヴァン東京校において、ドメーヌ・シモン・ビーズの当主夫人である千砂ビーズ氏による「ブルゴーニュの原点 酸とミネラル」とのテーマを掲げた特別セミナーが開催されました。同氏は以前、東京校の講師をしていたこともあり、当日は知人や友人、受講生、講師仲間を含む60名を超える受講生が集まりました。司会進行には本校の特別講師である後藤和夫先生をお迎えし、気さくな語りあいのなかにも鋭い話題が含まれていました。また、試飲はシモン・ビーズのワインだけでなく、夫人のお気にいりの生産者を比べるというかたちであったため、興味深い内容となりました。参加者からも様々な話を聞くことができ、様々な銘柄を試飲することができて楽しかったとの感想を聞くことができました。


文:斉藤研一
Text by Kenichi Saitou

苦戦しそうな2007年もこれからの好天に期待
 
ドメーヌ・シモン・ビーズの当主夫人である千砂ビーズ氏。
 「いま苦戦しているというのが正直な感想」と千砂夫人は語り始めました。でも、昨日電話したところ「週末から天気が回復して暑さが戻ってきたので、2007年はこれからの好天に期待したい」とのことです。
 とにかく2007年のブルゴーニュは春先から天候がおかしかったそうです。2月にはアーモンドの花(イメージ的には日本の桜にあたる)がひと月ほど早く咲き、その直後に春の花々が一気に咲きだしました。葡萄も2月下旬には樹液が上がり始め、すぐに発芽。通常は5月に行う芽欠き作業を4月に行い始めたものの、芽欠き作業が十分でないうちに蔓が延び始めて、誘引作業を始めました。
 4月はまるで真夏のような暑さで、葡萄の開花は例年より3週間早く5月半ばに始まりました。ところが、6月は「花ぶるい」と呼ばれる寒の戻りがあり、仕舞いこんだセーターを引っ張り出すほどでした。天候は雨勝ちになり、畑はぬかるんでトラクターが入れないところも出てきました。
ところにより雹の被害が発生して、果実の腐敗が進み、排水性の悪い畑ではベト病が発生しました。そのため、ヘリコプターによる農薬散布がしきりに行われました。自然派の生産者たちの間でも、あわてて農薬を撒き始めたり、農薬の濃度を上げたりといった具合だとのことです。
 「畑作業が追われるままに行われた」と今年前半を千砂夫人は振り返ります。この週末からの好天は「月が変わったから」とブルゴーニュでは考える向きがあるとのこと。いまでも月のカレンダーが農作業では使われており、7月14日が新月だったことから、天気が変わると強く信じていた生産者もいたとのことです。
白の前評判がよい2006年は価格が60%上昇
 
白ワインのラインナップ。左からサヴィニィ・レ・ボーヌ「ヴェルジュレス」2004年(ドメーヌ・シモン・ビーズ)、ムルソー2004年(ドメーヌ・ギィ・ルーロ)、ピュリニィ・モンラッシェ2004年(ドメーヌ・ルイ・カリヨン)。
 2006年は先週、瓶詰めを始めました。7月の猛暑、8月の冷夏、9月の雨と目まぐるしく天候が変わり、「難しい年」と言われています。このような年だからこそ、「白ワインはふくよかで、深みのあるスタイルになる」と千砂夫人は語ります。
 それは葡萄が熟す頃に雨のため貴腐菌が繁殖して、「アカシアの花のような甘い芳香が加わるから」とのこと。でも、リッチすぎるのはビーズらしいスタイルではないとして、樽熟成を早めに切り上げたそうです。
 ブルゴーニュ・ワインの価格指標ともなるオスピス・ド・ボーヌの競売会での価格も、記念碑的ヴィンテージとされる2005年に対しても60%の高騰となりました。それというのも近年、オークションで知られるサザビー社が運営に携わり、競売会前に報道向けの発表会を行うなどして、話題作りに成功したためと言われています。
 もともと2005年の品薄感があったため、2006年の白ワインも引き合いが強いようです。一般向け商品でも2~3割の高値となっています。日本ではユーロ高もあって、相当な高値となることが予想されます。
「悪夢」と自分に言い聞かせた2004年も秋の好天で挽回
 
会場には60名を超える受講者が集まりました。その内訳は友人、知人、受講生、講師仲間というように、アカデミー・デュ・ヴァンとの長い付き合いをうかがうことができます。
 ブルゴーニュに暮らす仲間で立ち上げたWebサイト『ブルゴーニュ生活』を立ち上げた年でもあり、2004年は千砂夫人にとっては思い出深い年です。記録的に雷雨(しかも雹を伴う)が多かった年で、ご主人のパトリック氏は「30年に一度の悪夢」と自分に言い聞かせるようだったと振り返ります。
 果実が成熟した後の雹は致命的となります。千砂夫人自身、同年8月25日のブログで、2004年の雹のことを書いています。しかし、9月に入ると好天が収穫まで続き、奇跡的な回復に到ります。乾燥と風により傷んだ果粒は自然に落果してしまいました。
 例年ではボーヌ地区はニュイ地区に比べて1週間早く収穫を行うものの、2004年はほぼ同時の9月21日に収穫を迎えます。早く収穫を迎えることは、病害・鳥獣害のリスクが少ないとも言えますが、青臭さや物足りなさにも陥ります。そういったことから、2004年はボーヌ地区のワインの出来映えが期待されます。
 ちなみにドメーヌ・シモン・ビーズではさらに成熟を待ち、9月25日から10月6日に収穫を行いました。「遅くて長い収穫」だったわけです。区画毎に果実の成熟度を確認して、収穫を行いました。最終日の明け方に小雨が一時降ったのですが、皆が「降らないで」と祈りながら作業を行ったところ、作業を終えて昼食を食べ始めた頃に、大雨が降り始めたとのことです。
ヴィンテージによる仕込み方の違い
 「2004年のように難しい年は作業を丁寧に行わないといけない」とのことです。白ワインではプレス作業をゆるく、デブルバージュ(発酵前の固形物沈降)はゆっくりと行います。また、バトナージュ(樽熟成中の澱の攪拌作業)はやさしく行い、あまり澱が舞いすぎないところでとどめるといった具合で、嫌なところを取り除き、良いところを残します。
 赤ワインでは選果を十分に行っても、腐敗果がどうしても混ざります。そのため、通常よりピジャージュを減らし、果粒を潰さないように心がけるそうです。これ加えて、発酵期間を短くするためにルモンタージュを併用しました。通常15日のところを10~12日に切り上げたそうです。もちろんピノ・ノワールの繊細さを殺さないため、汲みあげたワインは果帽の上に振り掛けるのではなく、果帽の中に注ぐようにしたと言います。同ドメーヌに特徴的な全梗発酵を行わず、果梗を半分だけ使用したそうです。
 一方、乾燥して暑かった2003年は、驚くくらいに酸のレベルが下がったそうです。これにはブルゴーニュの土壌汚染問題も絡んでいるとのこと。1970~1980年代に成長促進と収量増大を目的にして、ブルゴーニュではカリウムを多量に散布しました。2003年は乾いた年のため、根が地中深くまで伸び、そのために残留カリウムを吸収してしまいました。
 カリウムは成長促進などの効果もあるものの、果汁中の有機酸を減少させてしまいます。とくに資金力のある生産者や村(ピュリニィ村やムルソー村など)は、かつてカリウムを大量散布していたため、その被害が大きいと言います。夫人はこの後1世紀に渡って、有機酸の減少問題に煩わされるだろうと予測します。
 また、近年の自然派的アプローチに関しては、理想は素晴らしいが、実際のワイン造りでは現実的アプローチも大切にしたいと言います。例えば、2004年のような天候不順な年は、甚大な病害のために失敗した生産者も多いそうです。ある生産者は特級を生産できずに終えてしまいました。「皆さんが病気になったとき、薬を使わなかったらどうなりますか」と千砂夫人は問いかけました。
補糖と補酸、除酸をどのように考えるべきか
 
赤ワインのラインナップ。左からサヴィニィ・レ・ボーヌ「ヴェルジュレス」2004年(ドメーヌ・シモン・ビーズ)、ジュヴレィ・シャンベルタン2004年(ドメーヌ・トラペ)、ニュイ・サン・ジョルジュ「クロ・ド・ラ・マルシャル」2004年(ジャック・フレデリック・ムニュエ)。
 黒葡萄の場合(赤ワイン用)、収穫は果実の成熟度で決めます。一方、白葡萄の場合(白ワイン用)、収穫を待ちすぎると重いスタイルになりがちなので、有機酸がどれくらい果汁中にあるのかを確認します。2003年のように補酸で切り抜けた年もありますが、ブルゴーニュでは除酸をしなくてはならない年もあります(近年は1988年、1993年、1996年、2004年)。
 ブルゴーニュ・ワインの特徴は酸とミネラルの調和によって成り立ちます。「お互いがあることによって引き立てあう」と夫人は言います。ただし、難しいのは糖類や有機酸は分析で把握できるが、ミネラルは分析としては把握できるものではない」ということです。
 近年はブルゴーニュでも補酸を行わざるを得なくなってきましたが、補酸が難しいのは添加量とタイミングにより、美しく仕上げてくれることもあれば、「エグくて、補酸をしたと分かってしまう」ものにもなることです。しかも補酸をしたところで、すべてが風味に寄与するのではなく、温度やpHにより結晶として析出してしまうので、定量化ができていないとのことです。
コート・ドールのなかのコート・ド・ボーヌの位置づけ
 
試飲内容はドメーヌ・シモン・ビーズのものだけでなく、夫人のお気にいりの銘柄も含まれました。ブルゴーニュでも名手として知られる生産者ばかりの豪華なラインナップです。
 当日の試飲は、白赤3種ずつで(白ワインは{1}~{3}、赤ワインは[4]~[6])、ブラインドで行われました。

{1} サヴィニィ・レ・ボーヌ「ヴェルジュレス」2004年 ドメーヌ・シモン・ビーズ
{2} ムルソー2004年 ドメーヌ・ギィ・ルーロ
{3} ピュリニィ・モンラッシェ2004年 ドメーヌ・ルイ・カリヨン
{4} サヴィニィ・レ・ボーヌ「ヴェルジュレス」2004年 ドメーヌ・シモン・ビーズ
{5} ジュヴレィ・シャンベルタン2004年 ドメーヌ・トラペ
{6} ニュイ・サン・ジョルジュ「クロ・ド・ラ・マルシャル」2004年
ジャック・フレデリック・ムニュエ

 白ワインはいずれも酸とミネラルが美しく表現されています。とくに筆者が感じたのは、低めの温度帯では、[1]のバランスのよさが際立っていました。[2]は当初から樽香が強めで、アペラシオンらしいドライな仕上がりになっています。[3]は上品にまとめられており、会場内で最も評判がよかったのも頷けます。
 一方、赤ワインは生産者のスタイルが目立っていました。[4]は顕著な自然派のスタイルが現われており、やや熟成感のある雰囲気で、やさしさがあります。[5]はそれに近いスタイルですが、もうひと回り肉付きがあり、アペラシオンらしい錆臭さがあります。[6]は濃密で、アペラシオンらしい土臭さがありました。

 夫人もブルゴーニュで10回目の収穫を迎えました。そのなかで感じるのは「自然は怖い」「何が起こるか分からない」ということ。それに対して、ご主人のパトリックは「次のことを考えている」とよく言うそうです。自然は受けいれるしか術がないのですが、よいワインを造るためには何が求められているのを考え、それを成し遂げるのが大切なのだと語ってくれました。

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